- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道長沼町
- 広報紙名 : 広報ながぬま 令和7年10月号
■3歳になったオスは故郷へ戻り、メスは…!
舞鶴遊水地に住むタンチョウ夫婦は、今年も子育て中です。2020年から2024年まで、毎年産卵・育雛(いくすう)を行い、2022年と昨年は冬まででしたが、それ以外は1羽を自立するまで育てるのに成功しています。ご承知のように、タンチョウのなかでも優秀な繁殖番(つが)いです。
このうち、2020年と2021年生まれの子は、すでに5歳と4歳の成鳥になっていて、名札(標識)がついていないのではっきりとは言えませんが、少なくとも1羽はオスで、近隣の遊水地などで繁殖活動をしているようです。
実は、タンチョウの子が親から独立して、気に入った相手と繁殖のためどこに住むかは、オスとメスで異なります。まず、1歳になって独立した亜成鳥たちは、オスもメスもあちこち2年間、広く飛びまわりながら、気に入った相手を見つけます。一般に3歳になると、オスは番い相手のメスを連れて生まれ故郷へ戻り、なわばりを構えて繁殖生活を始めようとします。こうした傾向を、専門用語では出生地回帰性(しゅっしょうちかいきせい)などと言います。もし、親が亡くなっていて、実家が空き家なら、そこに住むでしょうし、もし親が健在なら、あちこち飛び回っていた間に見ておいた、近くの適切な所に新居を構えるでしょう。舞鶴遊水地で育った若鳥も、親はまだ舞鶴遊水地で頑張っていますから、慣例に従い生まれた場所近くに繁殖地を決めたと言えそうです(図)。
しかし、近場(ちかば)に適当な空き地があるとは限りません。しかたありません。オスはどこか離れた条件の良い所へ行くしかないですね。これを相手のメスの立場からみると、番い生活をいとなむ所はオス次第(しだい)となります。根室地区での調査でも、生まれた場所と繁殖なわばりとした位置の間は、オス6羽の平均が約6kmなのに、メス6羽では約52kmもありました。しかし、ヒトもこれと似たようなもので、長沼町生まれで、長沼町に住む男性と結婚した女性も、たとえば彼女の生まれが本州なら、生まれた所から離れたところに住むことになります。
ただ、タンチョウでも、繁殖地で子育て中にオスが死亡したメスの生活領域(なわばり)へ、新たなオスが来て番いとなるケースも知られています。この場合は住む場所を結果的にメスが決めたことになり、いわばヒトの婿入りのような状態です。
繁殖地を決める際は、オスの出生地回帰性が原則だとしても、タンチョウも状況に応じて最も適した方法を選び、暮らしていると言えるでしょう。
(文:正富宏之)
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