文化 今年で修築復元30年 二本松城の石垣(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県二本松市
- 広報紙名 : 広報にほんまつ 令和7年7月号
■修築復元事業にいたる経過
今から30年前の平成7(1995)年6月、二本松城跡の本丸石垣修築復元事業が竣工しました。平成5年8月から約2年、費用はおよそ5億3千万円を費やして完成した平成の一大プロジェクトでした。
もともとは昭和60年代の、霞ヶ城公園整備に関して市民からの提言を受けて、平成3年5月に発表された市のシンボルとする「鉄筋コンクリート造り五重天守閣築造計画」に端を発するものでした。しかし、江戸期に天守閣が存在した記録が見られないため、文化財保護の立場から慎重な対応が求められ、本丸およびその周辺部の発掘調査を実施することになりました。
調査の結果、本丸に天守閣がつくられた痕跡はなく、加えて、これまで崩壊・滅失したと考えられてきた本丸北側から東側にかけて、⾧さ約80mにわたる石垣が発見されました。しかもこの石垣が、築城当初とその後に修改築された時代ごとの様相を残す貴重な石垣であることが判明しました。
この結果を受けて、市は発見された石垣を含む本丸全体の石垣を修築復元して後世に残すという方針を打ち出し、天守閣建設計画を白紙に戻すことを決定したのです。
そして、これまで土木工事として扱われてきた石垣修復工事を、二本松城跡では初めて「文化財」として位置付け、文化財工事として施工するに至りました。
■文化財石垣とは
石垣とは石を積み上げて作った壁のことで表面の築石(つきいし)のほか、排水や揺れた際の緩衝材の役割を果たす裏込(うらご)め石、それらを支える裏土で構成されています。
いわゆる穴太衆(あのうしゅう)による石垣は、古墳時代に朝鮮半島より伝来した技術に由来するといわれており、その後、中世寺院の石垣から発展して伝統技術としての城郭石垣が成立したと考えられ、石垣を城郭に最初に採用したのが、織田信⾧による安土城といわれています。
こうした古代からの技術を伝承して積み上げられた石垣を「文化財石垣」と呼びます。明治以降、コンクリート等近代工法を用いて積み直しが行われてきましたが、近年になり伝統技術の本質的価値が見直され、その技術を伝承する「文化財石垣」として保存修復していくことが求められています。
■石垣修築復元工事
平成5~7年の二本松城跡本丸石垣修築復元工事は、本丸部分の石垣をすべて解体し、「文化財石垣」として伝統技術で積み直しをするもので、解体した石材は3545石を数え、修築復元した石垣面積は2217平方メートルに及びました。
解体作業は、積石を一個ずつとりはずし、それぞれの大きさや特徴を観察した石材カードを作成して保管場所へ運搬することからはじまり、解体作業中は一段ごとに平面調査を実施するなど、約半年にわたり慎重に作業が進められました。
すべての解体作業が完了した平成6(1994)年1月31日には、古式にのっとり「鍬初(くわはじ)め式」が行われ、石積工事に取り掛かりました。
鳥取県から招いた石積の伝統技術をもつ石工棟梁の指導のもと、半年ほどの期間をかけて石積みが行われ、ようやく本丸石垣が蘇ったのです。
■修築復元後の二本松城跡
石垣復元委員会、工事関係者、教育委員会等多くの関係者が試行錯誤しながら事業を進めた結果、平成7年6月30日、二本松城跡本丸石垣修築復元工事が竣工しました。
この工事の間、現存石垣の裏土内部にさらに古い時代の石垣が確認されるなど、文化財的な発見もいくつかありました。このため、教育委員会は平成10年から本格的な発掘調査を開始し、城内各平場等の遺構の残存状況や性格を明らかにする調査を年次計画で実施し、令和6年までに行った調査は32回を数えました。
その間、平成19年には「中世城館と近世城郭が同一箇所で営まれ、かつその変貌がよくわかり、当時の政治及び築城技術を知ることができる東北地方を代表する城跡」として二本松城跡は国史跡に指定されました。
現在は当地域の歴史・文化を伝える史跡公園として、サイン整備や石垣の露出展示などを行い、保存・活用・整備を進めています。
■東日本大震災と二本松城跡
平成23年3月11日、東北地方を襲った地震は当市においても甚大な被害を及ぼしました。
二本松城跡の石垣には、はらみ、裏込め石の沈下、地割れなどがみられ、特に本丸南東面の石垣への影響が大きいことが確認されましたが、幸い崩落するには至りませんでした。
被災した他の城郭に比較して被害が少なかったのは、伝統工法で積み直したことに起因していると考えられています。
近代工法であるコンクリートを使用した石垣は揺れを吸収できずに崩壊したものが多くみられましたが、二本松城跡では伝統工法を基本に施工したことから、1石も崩落しませんでした。
改めて先人の技術力の高さに感心させられます。