文化 歴史にふれる

■下稲吉「厄除大明神」祭礼
市民学芸員 谷川峯子

昔は、その地域に住む人々の素朴で漠然とした信仰の対象となる神社があり、祭礼が行われていました。しかし、今はほとんどの所がすっかり寂れてしまっているように見受けられます。
厄除大明神の祭礼は、下稲吉の南のはずれ、上稲吉との境(市民窓口センターから北西に数百メートルの地点)で、毎年旧暦5月12日に行われます。神輿が出ることもなく、祭囃子が奏されることもありませんが、素朴で親和の情が感じられる祭礼といった趣があります。いつ頃から続けられてきた祭礼なのかは不明ですが、20~30年前頃まで、この場所は木々に欝蒼(うっそう)と囲まれ、近くに住んでいても神社とは気が付かないような場所でした。木々が伐られた今では100坪ほどの境内が明るくなりました。境内の入口には花崗岩製の神明鳥居があり、その奥に朱色の四脚鳥居があって間近に祠があります。祠は立派な覆屋(おおいや)で保護され、大切に奉祀されていることが分かります。少し前までは、祭礼日に関わりなく「奉納厄除大明神」という朱色の幟(のぼり)が立てられていました。神社の管理は、以前は下稲吉の自治会が行っていたようですが、いつの頃からか「厄神様保存の会」が結成され、後継者が絶えないように工夫がされています。
先般の祭礼で、参加者の方から「子供の頃『この祭礼でいただいた赤飯を食べると疫病にかからない』と親から教えられた」と聞きました。神社を管理する方によると祭神は不明とのことでしたが、このお話から、厄除大明神の祭神は牛頭天王なのではないかとも考えられます。
厄除大明神の祭礼は、華やかさはなくとも地域の安泰を願う大切な神事です。担い手不足によって地域の祭礼が減少している中で、保存会を立ち上げ伝統文化として祭礼を継承している皆さまに感心し、応援したい気持ちになりました。一人でも多くの方にこの「厄除大明神」のことを知っていただければ幸いです。

問合せ:歴史博物館
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