- 発行日 :
- 自治体名 : 群馬県桐生市
- 広報紙名 : 広報きりゅう 令和7年11月号
◆(7)近藤春奈さんの《Bonework(ボーンワーク)/骨組みをなぞる》
東京藝術大学美術学部絵画科准教授 アーツ前橋チーフキュレーター 宮本 武典(みやもと たけのり)
9月13日(土)から28日(日)まで、有鄰館で東京藝術大学油画専攻による桐生アートリサーチ報告展「REAL TIME IN KIRYU(リアルタイムインキリュウ)2025」を開催しました。来年11月に第1回を立ち上げる新たな芸術祭「桐生AIR(エアー)」の実践シュミレーションとして、16人の藝大生が桐生での取材・制作に挑みました。
「桐生AIR」のAIRとは、Artist in Residence(アーティストインレジデンス)の略で、アーティストが異環境に滞在して行うリサーチや創作を支援する事業のこと。受け入れる地域側は文化資源の掘り起こしや国際交流につながるなど、相互にメリットがあります。10月から上野キャンパスで後期の演習が始まり、僕も学生も息つく間もなく忙しくしていますが、この夏の活動をしっかり振り返り、来年に本格始動するAIR事業の環境整備を進めていくつもりです。
学部2年の近藤春奈さんは準備も含め、今回最も長期間、桐生に滞在してくれた学生です。彼女は中央大学国際経営学部で国際支援を学んだ後、東京藝大油画専攻に入学したというユニークな経歴の持ち主です。桐生でのリサーチは大学院のプログラムなのですが、彼女の研究意欲とコミュニケーション力を見込んで、今回、期間中の運営を任せてみました。自身も出展者の一人として煉瓦(れんが)蔵で制作をしながら展覧会と宿泊施設の管理を担うのは大変だったようですが、最後までやり切ってくれました。
近藤さんの巨大な絵画作品《Bonework/骨組みをなぞる》は、絵の具ではなく、銭湯「一の湯」のまきボイラーからかき出した灰やすすで描かれています。その土地でモチーフを見つけ、その土地の素材で制作し、その土地の人々に見せるために展示する。地域の人々と積極的に関わった彼女だからこそ、このプログラムが理想とするAIRのプロセスを体現してくれたと思っています。
先日、近藤さんをはじめ運営を手伝ってくれた学生たちの慰労会を上野のアメ横で開きました。彼らが1か月暮らした重伝建の路地とは真逆のアメ横の混とんを背に「もう桐生に帰りたい」「東京の方が非日常に感じる」と言う学生たち。その言葉を聴きながら、不確実性の増していく社会の中で才能ある若者たちが貴重な数か月を桐生に投じてくれたことを、僕はしみじみとありがたく思ったのでした。
