その他 [特集]海と人が育む至宝 九十九里浜のハマグリ(1)

▽ハマグリ漁の世界をお届けします
動画はこちら→(市公式YouTube)
※広報紙掲載の二次元コードをご覧下さい。

古くは縄文時代から人々に親しまれてきた「ハマグリ」。
浅瀬の海底で採れる滋養豊かな美味しい食材としてだけでなく、ぴったりと合わさる二枚貝の姿から「結びつき」の象徴として日本文化の中でも特別な存在とされてきました。
全長約66kmにおよぶ九十九里浜の市内一部の海域には、九十九里漁業協同組合成東支部の漁師たちが丹念に育む艶やかで美しいハマグリが生息しています。
ハマグリ漁は漁船のほか、毎年5月から8月中旬にかけ伝統的な「手がき漁」が解禁されます。この時期に採れるやや小ぶりのものは「ぜんな」と呼ばれ、ぷりっとした柔らかな身に旨味が濃縮されているのが特徴です。
海の恵みと漁師たちの思いに育まれた九十九里浜のハマグリは、その「結びつき」を物語るかのように、知る人ぞ知る逸品として輝きを放っています。

◆ひとつひとつに真心をこめて守りたい、ハマグリの未来を
今では当たり前のように私たちの食卓を彩るハマグリ。その豊かさの裏には乱獲を避け、毎年平等に漁を行う九十九里漁業協同組合成東支部の漁師たちの「未来へつなぐ」という強い志があります。現在流通しているハマグリのうち、国産はわずか1割程度です。その貴重な資源を守り、次の世代へと受け継ぐ–同支部の取り組みには、長い歴史と深い思いが込められています。
同支部の始まりは昭和40年。最年少25歳から最年長歳まで総勢人(令和7年8月現在)の漁師で構成されています。現在、手がき漁の代表を務める江波戸隆弘さん(井之内)は25年の漁師歴を振り返りながら「過去には乱獲の影響で年に5粒しか採れないこともありました。そこから支部全体で資源保護の意識が高まり、今はみんなで取り決めて月14日間だけの操業とし、1回の採取を指定の樽1本までと制限を設け、若手の発案で、手がき漁と漁船の漁師が協力して稚貝の放流にも取り組んでいます。また漁で採れたハマグリは専用の振るいでひとつひとつ選別し、小さなハマグリは、海に戻し、翌年まで成長を待ちます。自然の恵みは人間の都合どおりには育ちませんから」その表情には、自然に対する敬意と優しさがにじみます。
水深2m以上の深場を越えた沖合で行う手がき漁は命がけの現場です。「海の深さや潮の流れの見立てを先輩方に学び経験を重ねてきましたが、今も命の危険を感じることはあります。そんな時は、せっかく採った樽1本のハマグリを全て海に捨てることもあります」そこには、命を守る大切な道具との絆が存在します。「漁の道具は自分の命を守ってくれる大切な相棒で、いつも会話しています」と同支部が独自に開発した浮袋のジョニーくん。(写真左)
海の厳しさと向き合いながら、恵みに感謝し、その恵みを次の世代へ引き継ぐ漁師たち。そして、漁の無事を祈り、裏方で支える女性たち。豊かな海と人の力に恵まれた同支部は、ハマグリと共に輝きに満ちていました。

◆ハマグリ漁(手がき漁)の一日
(1)AM8:00
潮の流れを確認し、安全な出漁と帰路を見極める

(2)AM8:20
沖の浅瀬に行くには、流れの速い深場を超える(浜から沖まで約100m・水深2~2.5m)

(3)AM8:30
潮や地形を確認しながら、慎重に漁を開始
・自作の浮袋と漁具を携え、荒波2mに挑む、命がけの“手がき漁”

(4)AM9:30
獲れたハマグリ(重さ約50kg)を背負って浜へあがる

(5)AM10:00
ふるいで大きさを分け、丁寧に選別し、稚貝は再び海へ放流

◇これが漁の相棒!ハマグリ漁師の漁具を紹介
・棒の先に金具を取り付けた独特な形状で、砂の中をかき分けてハマグリを探り当てる
・発泡スチロールを加工して、視認性や安定腰カッター性を考えた工夫が随所に凝らされています

◆九十九里漁業協同組合
成東支部 川村力次さん(91)
今月、満91歳を迎える成東支部の最年長、川村力次さん。30歳まで東京で暮らし「戦争で兄弟を全員失い、家を継ぐためにしっぽ(末っ子)の自分が帰ってきた」と話します。今も現役の手がき漁師として活躍し、妻の喜代江さん(85歳)と支部を支えています。漁のない時期は、米やネギを育てる海と陸の”レジェンド”で、昨年までは、水深2m以上の深場を越え沖合に出て漁を行っていました。「戦時中は、裸でふんどし一丁、竹の棒を持って、流されないように背中に鉛を背負い漁に出た。苦労も多かったけれど、漁の技術が上達したのは負けず嫌いな性格と漁が面白かったからだね」と笑顔で振り返ります。
ピンと背筋の伸びたその背中には、困難を乗り越え、海と向き合ってきた漁師歴60年の歴史と誇りが刻まれていました。

※詳しくは広報紙P2.3をご覧下さい。