スポーツ いま知りたい!デフリンピックの魅力(2)

◆東京2025デフリンピック 日本代表選手にインタビュー
○Profile
髙田裕士(たかだゆうじ) 1984年11月3日生まれ
先天性の最重度感音性難聴で、両耳の聴力レベルは100デシベル以上。専門は400メートルハードルで、日本デフ記録を保持。国際大会では金メダルを3個、銀メダルを2個、銅メダルを1個獲得、今大会でデフリンピックは台北2009大会から5大会連続で出場となる。平成30年度から港区観光大使を務め、イベントへの参加等精力的に活動している。

─陸上を始めたきっかけはなんですか。
中学・高校は野球部に入っていました。でも、高2のときに肩をけがして、大学で野球を続けることが難しい状態になってしまったんです。今までずっと打ち込んできたものを頑張ることができなくなって、心に大きな穴が開いたような気持ちになりました。
「もう一度スポーツの世界で輝きたい」と考えていたとき、中学時代に陸上部の顧問から頼まれ、助っ人として出た駅伝大会で区間賞を取ったことを思い出しました。陸上だったらできるかもしれない、と思い立ったのがきっかけです。

─競技に取り組む上で、苦労された体験はありますか。
聞こえる人たちの大会に参加するときは、必ずしもスタートランプが用意されているとは限りません。スタートランプがない場合は補聴器をつけて試合に挑みますが、スタート音が聞こえなかったり、応援の声をスタート音と間違って失格になってしまったりすることもあります。試合に行って、走れないまま帰るということも何度か経験しています。

─競技へのモチベーションの源を教えてください。
僕は今年で41歳になります。「どうして続けられるの?なんで頑張れるの?」とよく聞かれますが、実は自分でもあまりピンと来ていません。これまで日本代表としてさまざまな大会に参加し、メダルも取りました。でも、デフリンピックではまだメダルが取れていないんです。自分の夢がかなえ切れていないからこそ、その夢に向かってチャレンジし続けることができるのかもしれません。
皆さんにお伝えしたいのは、夢というのは「かなってそれで終わり」ではないということです。夢がかなったらまた新しい夢を持って挑戦する、そういった人生を送っていただきたいです。

─練習をする上で、最も大切にしていることは何ですか。
陸上競技の練習内容は、プロの選手でも一般の人でもほとんど同じです。違いは何かといえば、「どこまで自分の限界に挑戦できるか」だと思います。限界まで挑戦すると、やめたいと思うくらいとても苦しくなります。それでも、プロとして限界に挑戦することを大切にしています。
また、練習をしている自分の姿を、応援してくださっている人が見たときに、「頑張っているな」と思ってもらえるかどうか、という視点も踏まえながら取り組んでいます。

─日本のデフアスリート界初のプロ選手であることへのプレッシャーはありますか。
プロになったばかりの頃はありました。もし自分が失敗したら、次に続く人たちがいなくなってしまう。だから何がなんでも成功して、次の世代の人たちに道を作りたい、というプレッシャーです。
でも今は、デフリンピックに出る日本代表選手たちの中でも、プロもしくはアスリート社員として活躍している人が増えてきました。そうした現状をとてもうれしく感じています。

─競技人生におけるキーパーソンはいますか。
本当にたくさんいます。まずは、先ほどお話しした、中学のとき、駅伝大会に誘ってくれた顧問の先生。次に、大学の陸上部の監督。長距離をやりたがっていた当時の僕に、「君には短距離の方が合っていると思うよ」と言ってくれたんです。監督の言葉がなければ、僕は短距離を選んでおらず、デフリンピックに出られていなかったかもしれません。
それから、大学時代に、補聴器をつけて走っている僕の姿を見て、「デフリンピックって知ってるかい?」と声をかけてくれた方。当時は、まだデフリンピックや障害者スポーツが有名ではありませんでした。だから、僕はデフリンピックのことを知らなかったんです。彼から勧められたことがきっかけで、デフリンピックをめざすことになりました。
そして家族。妻や息子は、一番近くでずっと応援し続けてくれている存在です。僕がアジア大会や世界大会でメダルを取っても、「まだまだ」「デフリンピックがまだでしょ?」って厳しいんですよ。でも、いつも力強く支えてくれます。
コーチとして部活指導をしている、ろう学校の生徒たちの存在も力になります。「コーチみたいになりたい」「コーチと一緒に日本代表として大会に参加したい」とみんな言ってくれるんです。いろいろな人たちのおかげで、今の自分があると思っています。苦しいときや限界に挑戦しているとき、僕はいつも周りの人たちの顔を思い浮かべます。家族や教え子たちがサインを書いてくれたスパイクを見ると、「よし、頑張ろう」と思えます。

─デフ陸上を観戦する際、どんなところに注目すればよいですか。
出場選手はろう者なので、聞こえる人たちの陸上と比べて、選手たちの身振りが大きく表情も豊かです。そのため、遠くから見ても、選手の今の状況や心境が伝わりやすいはずです。手話が分からなくても、選手の反応や表情に注目すると面白いと思います。国によって手話は違うので、見比べてみるのもお勧めです。

─デフリンピックへの意気込みをどうぞ。
僕にとって、今回が5回目のデフリンピック出場になります。1回目は400メートル、2~4回目は400メートルハードルで出場し、5回目となる今回は、110メートルハードルに出場します。取り組み始めたばかりの種目なので、本番でどこまでできるかは未知数ですが、国士舘大学の右代啓祐さんに指導していただきながら技術を磨いています。目標はメダルを取ることです。

─読者にメッセージをお願いします。
11月15日から、東京でデフリンピックが開催されます。世界からデフアスリートが集結し、さまざまな競技に挑みます。僕の出場する陸上競技を応援していただけるとうれしいのはもちろんですが、それ以外の競技でも、好きなスポーツや興味のある選手を見つけてみてください。サインエールという新しい応援方法もあるので、ぜひ会場で使っていただければと思います。応援よろしくお願いします。

問い合わせ:生涯学習スポーツ振興課スポーツ企画担当
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