- 発行日 :
- 自治体名 : 東京都台東区
- 広報紙名 : 広報たいとう 令和7年11月20日号
その十二 蔦重ゆかりの人物(10) 東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)
東洲斎写楽は、生没年や経歴が一切不明の浮世絵師です。蔦重が写楽を見いだした詳しい経緯はわかっていませんが、蔦重は、寛政6年(1794)に歌舞伎役者の上半身を描いた写楽の大首絵(おおくびえ)を28点一挙に出版しました。このデビュー作は、そのすべての背景に黒雲母摺(くろきらずり)を用いた豪華なもので、それまで無名だった浮世絵師としては異例なものでした。役者絵は当時、歌舞伎役者のブロマイドとしての一面もありましたが、写楽の役者絵は役者の特徴を美醜問わず、見たままを描き出しています。
写楽はデビュー後、140点を超える浮世絵を蔦重のもとで世に送り出しましたが、わずか10ヶ月で忽然(こつぜん)と姿を消してしまいました。写楽の正体はいまだ謎に包まれていますが、阿波(あわ)の能役者、斎藤十郎兵衛(さいとうじゅうろべえ)とする説が最も有力とされています。
写楽の作品の中でも最も有名といえる「三代目大谷鬼次(さんだいめおおたにおにじ)の江戸兵衛(えどべえ)」は、よく見ると顔の大きさに比べ、小さな手が際立っているように見えます。この作品は、同じく写楽が描いた「初代市川男女蔵(しょだいいちかわおめぞう)の奴一平(やっこいっぺい)」と対になっており、2つの作品を向かい合わせに並べると目線が合うように見てとれます。江戸兵衛が奴一平の金を奪おうと襲いかかろうとする緊迫した場面を、写楽は、懐からぬっと突き出された手を江戸兵衛の顔より奥に描くことで見事に表現しています。
問合せ:文化振興課大河ドラマ活用推進担当
【電話】5246-1118
