- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県小田原市
- 広報紙名 : 広報小田原 令和7年12月号 第1280号
【WEB ID】P40428
「戦後80年事業」の一環として行われた「中学生沖縄派遣事業」では、戦争の歴史に触れるため、市内在住の中学生24人が8月に沖縄県を訪問。実際に沖縄戦の舞台となった地で見聞きし、学んだ体験は、彼らにとって命の尊さや平和への願いを深く感じる時間となりました。
派遣事業に参加した中学生の代表5人に本事業を通じて得られた思いを聞きました。
《派遣事業に参加した中学生の代表5人》
県立平塚中等教育学校2年 長山さん
橘中学校2年 坂本さん
城南中学校1年 田口さん
鴨宮中学校3年 門間(もんま)さん
鴨宮中学校2年 保田(やすだ)さん
◆参加したきっかけ
─坂本さん
以前、家族旅行で長崎県の原爆資料館を訪れました。その時に資料館で見た展示品や写真から、戦争の悲惨さを知り、胸が苦しくなりました。もし、自分や大切な家族、友人の命が戦争で失われたらと考えると、とても怖くなり、平和について深く知りたいと思いました。
─門間さん
戦争への関心は漫画がきっかけで、1年ほど前から都内の資料館を巡り、戦争について調べていました。戦時中の人々の思いを知りたいと思い、今回応募しましたが、参加が決まった時はうれしいというよりも、80年前に大勢の人が亡くなられた場所に、足を踏み入れることに対して、緊張感を覚えました。
─保田さん
私はスリランカで生まれ、小学6年生の時に日本に来ました。日本の小学校で第二次世界大戦などについて学びましたが、戦争が起こった背景や歴史について知りたいと思いました。
◆印象に残ったこと
─長山さん
戦時中、目の前に広がる沖縄の美しい海が、約1500隻の軍艦で埋め尽くされ「黒い海」と呼ばれていたと聞き、海の表情が違って見えました。
また、ひめゆりの塔では「ひめゆり学徒隊」として命を落とした学生について教わり、勉強や部活動などで私たちが当たり前に過ごしている日々が、どれほど恵まれているのか気付かされました。
─田口さん
アブチラガマが印象的でした。聴覚に頼るしかない暗闇の中、聞こえてくるのは、負傷した兵士や住民の呻(うめ)き声や叫び声だったそうで、精神的にも肉体的にも辛かっただろうなと思いました。
説明の途中、一時的に明かりを消し、当時の暗闇を体験しました。数秒間でとても怖くなり、自分にはとても耐えられないと思いましたが、当時の人は「傷口を見ないで済むから、光がないのが救いだった」と言うのです。戦争が、どれほど想像を超える恐怖だったことかと思い知らされました。
─坂本さん
戦争体験者から「当時は国のために死ぬことが名誉なことだった」という話を聞き、とても驚きました。死ぬことは怖いし、私には全く想像できませんでした。
また「沖縄にある米軍の基地についてどう思うか」との質問を受け、戦争が終わった後も、当時の敵国の基地が残り続けていることに、複雑な心境でした。
◆平和への思い
─長山さん
現地の人から、沖縄の方言で「ヌチドゥタカラ(命こそ宝)」という言葉を教わりました。この言葉は過酷な状況でも命を大切にし、必死に生きてきた人々の強い思いを表しています。ご飯を食べたり、友人と遊んだりする当たり前と思っている日常が、何よりも貴重なことだと改めて思いました。
─田口さん
多くの犠牲者を出した沖縄戦ですが、現在の那覇市内はとても栄えていて、戦争の面影を感じさせない街並みでした。多くの犠牲を乗り越えてここまで復興されたことに、沖縄の人たちの強さを感じました。
─保田さん
今回の沖縄派遣事業は、平和について改めて考えるきっかけになりました。スリランカ人の父は、実際に母国で内紛を経験していて、幼い頃にその時のことを話してくれました。父だけでなく親戚にもその話を聞いて、平和について考えを深めたいと思うようになりました。
◆平和に向けて自分でやっていきたいこと
─坂本さん
沖縄での学習を通じて「絶対に戦争を起こさない」という強い思いが芽生えました。今回学んだ戦争の怖さや衝撃を周囲に伝え、平和について考える人の輪を広げていきたいと思います。そして、平和な日々を当たり前だと思わず、感謝の気持ちを大切にしたいと思いました。
─長山さん
日常生活の中で、友達や先生と意見がぶつかることもあるかもしれませんが、身近な人との関わりを大切にし、お互いを尊重し、理解する努力をしていきたいです。そして、募金活動などの支援にも関わり、平和の実現に貢献したいと思います。
─田口さん
私は、戦争がなくなってほしいと望んでいます。そのためには、多くの人が戦争を理解する必要があると思います。意見や考え方などの違いが戦争を引き起こす原因の一つでもあるので、平和の維持には人の話をよく聞き、受け入れる姿勢が重要だと感じました。
─門間さん
戦争の歴史を風化させてしまうと、平和に対する感謝や命の尊さが薄れてしまい、また同じことを繰り返してしまうかもしれません。何より、80年前に苦しんだ人々がたくさんいたことを、忘れてはいけない気持ちが強くなりました。
私が戦争に興味を持ったのは、偶然手にした戦争の漫画でした。歴史を風化させないためにも、将来は漫画家になって作品に残し、一人でも多くの人にきちんと伝えていきたいと思うようになりました。
─保田さん
戦争はマイナスのイメージが強く、普段は友達とあまりそのような話をしませんが、3年生の修学旅行では広島県へ行くので、事前授業などで今回学んだ平和について友達と話したいと思いました。そして、宗教や人種、意見、考え方などいろいろな人がいる中で、差別や非難をすることなく、何でも理解する気持ちを持った大人になりたいです。
◆成果報告会
「中学生沖縄派遣事業」に参加した中学生同士での交流や、沖縄在住の人とのディスカッション、遺族の人たちからの話を通じて得た学びを、今後の生活に生かすとともに、友人や次の世代へ平和の継承を図るため、11月に成果報告会を開催しました。
詳しい内容は、市ホームページをご覧ください。
◆「平和の樹(き)」植樹式
本市加盟の平和首長会議で配布している広島の「被爆樹木の苗木(被爆アオギリ二世)」を、平和の象徴として植樹しました。
被爆に耐えて現在も生き続ける木を介して、平和について改めて考える機会とするため、成果報告会の後に「平和の樹」植樹式を市役所の前庭で開催しました。
◆小田原市戦後80年認定事業の紹介
戦後80年を機に、多くの市民が平和について考える取り組みを「小田原市戦後80年事業」として認定し、官民連携で推進しています。
