くらし 〈連載〉誠実 信頼 希望 〔加藤 憲一〕

◆「地域の祭り」の大切さ

第7次小田原市総合計画の基本構想では、小田原が大きく育てるべき「5つの力」に、自然・人・まち・産業と並んで「文化」を明確に位置付けています。「文化」はとても幅広く奥深い概念ですが、私たちがそれを身近に感じる場面の一つが「祭り」です。小田原では一年を通して、各地域に固有の「祭り」が催され、特に城下町エリアでは5月の大型連休前後に集中します。

私も市長として北條五代祭りに、続けて一住民として地元・大稲荷神社の祭礼に参加、祭りを堪能させていただきました。同じ祭りでも、北條五代祭りは小田原を挙げての一大観光行事の側面が強く、多くの人たちに足を運んでいただけるよう、さまざまな工夫が凝らされます。実際、今回は24万人もの人たちが市内外から集い、小田原城周辺の沿道は幾重もの人垣で埋め尽くされました。

片や、地域の神社の祭りは、「氏神様」の御霊(みたま)を入れた神輿(みこし)を担いで地域を練り歩き、共に木遣(きや)りを唄(うた)い、御神酒(おみき)を酌み交わし、世代から世代へと祭式を伝承することを通じて、同じ地域に生きる人たちの絆を深めることに大きな意義があります。小さな子どもからシニア層まで、まさに老若男女がそれぞれの役割を果たし、設営~神輿渡御(とぎょ)~宮入り~撤収までを皆で担うプロセスは、他の地域行事では果たせない大事なものです。

私も小学生の頃から大稲荷神社の祭りには参加し、神輿を担いできました。地域から離れる中学~高校時代、京都での大学時代、東京での社会人生活の頃こそ、祭りから遠ざかっていましたが、東京での仕事を引き上げ小田原に戻ってきてからは、神輿会の一員としてほぼ毎年参加してきました。一年に一度しか顔を合わせなくとも、ひとたび集まれば「あ・うん」の呼吸で祭りを担い合う関係。私も還暦を過ぎ、気が付けば20代・30代の若者が多くなったので、担ぎ手としての役割はそろそろ遠慮しようかと思いますが、それでもお囃子(はやし)や木遣りを耳にすれば、家でじっとしてはいられないでしょう。

私たちが市民として、また地域住民としてのプライドや郷土愛、そして理屈を超えた絆を保ち育む上で、地域に根ざした祭りこそは、かけがえのない大切なもの。そんな「文化」が各地域で受け継がれている小田原の豊かさを幸せに思うとともに、しっかり守らねばと改めて感じた5月でした。