くらし 市長日記ーむーけーげー(無罣礙)ー

■音楽の力で
南魚沼市長 林 茂男

舞台袖にいた私は、轟(とどろ)いた『天地人』のオープニングの一小節で心が揺さぶられ涙が溢(あふ)れました。市制施行20周年記念事業の一つだった「新日本フィルハーモニー交響楽団」公演。その後に寄せられた多くの次回開催への期待と要望の声。その反響に驚き、本当にうれしく思います。
本稿ではそれと同時に進んでいた展開もお伝えしたい。11月の市の公演に先駆けて10月に開かれた関興寺コンサートのことです。実は、平成5年に同寺で世界の小澤征爾(せいじ)氏指揮のミニコンサートが開かれました。ミニどころではなく、漏れ伝わったことで本堂と境内に千人を越えるかと思われる聴衆が押し寄せたのだと。小澤さんは昨年2月6日に亡くなられましたが、それが報道されたまさにその時、お寺の片づけをされていたご住職が見つけたのが31年前のコンサート時の小澤さんと演奏家たちの名寄せサイン色紙。世界的奏者で氏の盟友ロストロポーヴィチさんの名も。後年に晋山され当時を知らないご住職でしたが「ただならぬ仏縁を感じ」られ、追悼の演奏会を思案されていたそうです。そこに私から、フィルと橋渡しができるかもしれないのでどうですか?と。地域で語り継がれてきたお寺と小澤さんの逸話を知る私は、正直少し気楽に。そんな奇跡のようなことがあったとは露とも知らず。実現した追悼コンサートは誠にすばらしいものでした。
話戻って、新日本フィルのこと。一昨年の夏の招致打診から公演への流れは、このコラム(令和6年6月号)に書きました。総責任者のKさんと「音楽の力」で街を変えていこうと共鳴し合えていたことも。残念ながらKさんは出会いから半年、病に倒れられ昨年初夏に旅立たれました。あの公演で傍らにいてくださったはずで、将来のことをこれからいっぱい話したい方でした。3月6日、墨田区の本部を訪れ、Kさんが提案してくれていた全国で3番目となる楽団の地方拠点協定への正式申請の伺いに。市は今年度、市内の高校生までを対象としたファミリーコンサートを予定。小澤さんとフィルを創設した山本直純氏の「オーケストラがやって来た」。これからは「いつもやってくる」街へ。音楽、芸術の力で雪国の鬱々(うつうつ)とした負の一面も吹っ飛ばしたい。