- 発行日 :
- 自治体名 : 新潟県関川村
- 広報紙名 : 広報せきかわ (2025年9月号)
■「江戸時代わが村の暮らし」(52)
野火禁止、庄屋の裁量
〜「歴史とみちの館」所蔵・平田家文書を読む〜
(村歴史文化財調査委員 渡辺伸栄)
◇幕府の文を庄屋が書き替えた
前回は、庄屋が高札(こうさつ)にして村人に示した「野火禁止の通達」を紹介しました。
もちろん、幕府からこのように村人に示すようにと指示があったのですが、幕府の原文と庄屋が村人に示した文では、二か所、違っています。
今回は、その違いについて、紹介します。
◇書き替え、一か所め
庄屋の文は、「よその領地であっても構わず踏み込んで捕えよ。捕違い苦しからず」となっていますが、幕府原文は、よその領地云々(うんぬん)の後で、「たとえ風聞(ふうぶん)(うわさ話)であっても捕えて差し出せ、捕違い苦しからず」となっています。
うわさ話で人違い逮捕しても構わないぞというのです。
それは、余りにもひどいというので、庄屋の段階で、前回紹介したように、管轄(かんかつ)場所違いでも、人違いでも、構わないと読めるように、少し印象を弱めた文に変えたのです。
◇書き替え、二か所め
幕府原文では、「山林萱野(かやの)等冬春は村役人で申し合わせ時々見回り、野火の無いようにすること。但し、風の激しい時は見回り人数を増やすこと」となっているところです。
ここを庄屋の文では、山林云々の後「村役人で申し合わせ時々見回り野山人数、野火の無いようにすること」と、意味不明の文章に改変しています。
幕府の文の「但し、強風の時は人数を増やせ」をカットして、「村役人で見回り」という文に「野山人数」を付け加え、なんとなく村人多人数で見回ると読めるようにしています。
村役人三人で広い山林萱野を見回るのは大変です。それで、村人も動員できるように、書き替えたのでしょう。
この箇所は話がややこしかったので、前回は簡単に「冬春、村役人は山林や萱野を見回ること」として紹介しました。本当はこういうことだったのです。
◇庄屋には裁量権があった
実は、幕府が示した原文は「制札(せいさつ)(高札のこと)案」となっていて(写真)、庄屋が多少の改変をすることは認めていました。
何しろ幕府の行政は、実際の現場を担っている庄屋によって支えられています。これくらいの現場裁量権はあって当然というものでしょう。
(原文と解説は歴史館に展示、又は、下の本紙QRから)