その他 鯖江でがんばる あの人の笑顔と素顔 vol.21

26事業者でつくる「鯖江駅前商店会」 会長 久保田裕之(くぼたひろゆき)さん(52)
好物は日本酒やそば、魚全般。サンドーム福井に来た駅利用客の道案内などをするボランティア団体「鯖江おせっ会もてなし隊」を立ち上げた上嶋睦美さんに刺激を受け、2017年1月から店舗を活用して休憩所の提供や荷物預かりなどを妻・桐子さんと始めた。

《輝かせる鯖江の「顔」》
「特急が敦賀止まりになっている現状で、報道各社の皆さんは鯖江のやや悲観的な部分を特に取り上げてくださっていますが、我々としては悲観している暇はありません」
2月17日、市役所4階の会議室。定例の市長記者会見に集まった報道陣を前に、主催する春の駅前イベントを説明し終えると、ひと呼吸を置いて言葉を継いだ。
「『前に進むしかない』ということで、駅前商店会のメンバー一同、前を向いて一生懸命活動しています」。ハピラインふくい開業から1年。鯖江の趨勢(すうせい)を握るとも言える「駅前エリア」を抱えながら、並々ならぬ思いで地元商店会を引っ張る。
鯖江駅前に店を構える老舗酒屋に生まれた。小さい頃から自然や生き物が好きで、近所にあった鮮魚店の水槽のヒラメを眺めたり、近くで飼われていたウズラを見に行ったりした。「友達と水路に通って魚やカメを捕まえたのも良い思い出です」
大学では京都に進学。経営学を修める一方で、子どもの自然体験学習を手伝ったり、大学の教員と一緒に屋久島に棲むサルのフィールド調査に行ったりもした。
家業を継ごうと決めたのもこの頃である。商売のあり方を考えようと新潟の酒蔵を訪ねる家族に同行。そこで、大好きな自然と、大地の恵みから生まれる酒づくりとが密接につながっていることを実感した。「現地での交流を通して自分の歩んできた道と将来像とがガチっとつながった」
京都からのUターン1年目に転機もあった。駅前のにぎわいづくりを考える会が立ち上がったのだ。顔を出してみると、人口規模などが似た埼玉県秩父市での成功事例にならって、第3土曜の夜にイベントを開くという。ネーミングを話し合う場でアイデアを口にしてみた。「三土市(さんどいち)はどうでしょうか」。サンドイッチと似た響きは、子どもも覚えやすい。キャッチ―な名前は好評で、採用となった。以来、「駅前」への愛着や誇りも手伝って、商店会の活動に力を注いだ。
ただ、北陸新幹線開業をめぐっては気がかりもあった。特急の停車がなくなった自治体はどうなってしまうのか――。先行事例を知ろうと、他県の自治体を一人で訪ねたことがある。「非常に厳しい状況を目の当たりにしました。そこで、『僕たちに何ができるのか』と自問自答するようになりました」。
その危機意識もあったからこそ、昨夏に「鯖江駅前商店会」の会長に就いてからはいっそう奮起。今年3月には食と音楽イベントの開催を企画し、若者に人気のアーティストを招待するなどして、鯖江ファンの掘り起こしを図った。
にぎわいづくりに向けた取り組みに終わりはない。今後は、商店会のメンバーに実情や課題などを尋ねるアンケートを実施するなどして、「次なる一手」につなげる考えだ。
「鯖江の元気はまちの顔である駅前の存在感があってこそ。停車本数が増えた3月のダイヤ改正も活かして、まずは近隣の市町から、そして嶺南や関西、中京からも鯖江にお客さんを呼び込むような取り組みをしていきたい」