健康 みなさんの健康

■夜中にふと目を覚ますと、息が苦しい
山梨大学医学部附属病院 呼吸器内科 臨床助教 星野佑貴

胸の奥が重く、何かに締め付けられたような感覚。「空気を吸いたいのに、思うように吸えない—」そんな経験をされたことがある人もいるかもしれません。これは、気管支喘息(ぜんそく)の発作の一つの例です。

喘息は、気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が起こることで、咳(せき)や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼー、ヒューヒューという音)などの症状を繰り返す病気です。子どもに多い病気というイメージがありますが、大人になってから発症するケースも少なくなく、全年齢で注意が必要です。実は、1995年に亡くなった歌手のテレサ・テンさんも、重い喘息発作が原因で命を落としたひとりです。彼女はアジア各国で人気を誇り、優しい歌声で多くの人々を魅了しました。しかし、慢性的な喘息を抱え、発作に苦しんでいたことはあまり知られていません。テレサさんは旅行先のタイで突然重い発作に見舞われ、帰らぬ人となってしまいました。彼女の死は「喘息は命に関わることもある」という現実を、私たちに強く突きつける出来事でした。

ここ山梨県でも、気管支喘息でお悩みの人は少なくありません。特に春先や秋口など、空気が乾燥する季節や気温差が大きい時期に悪化しやすく、夜間や早朝に症状が強くなる人もいます。また、最近ではアレルギー性鼻炎(花粉症やハウスダストによるくしゃみ、鼻水、鼻づまり)を合併する患者さんも増えています。アレルギー性鼻炎と喘息は「上気道」と「下気道」の違いはあれど、同じアレルギー体質が関係しており、実際に両者を併せ持つ人は珍しくありません。例えば「スギ花粉の季節に鼻の症状が悪化すると同時に、咳や喘息も出てくる—」そんなケースはよく見られます。

治療としては、まず発作を予防することが大切です。吸入ステロイド薬を中心としたコントローラー薬を毎日きちんと使うことで、気道の炎症を抑えることができます。発作が出たときのために、気管支拡張薬などの「レスキュー薬」を常備しておくことも重要です。加えて、アレルギーが原因とわかっている場合は、アレルゲンの除去や回避も効果的です。さらに、近年注目されているのが舌下免疫療法です。これは、アレルギーの原因物質(スギ花粉やダニなど)を少量ずつ舌の下から体内に取り入れることで、体を慣らし、アレルギー反応そのものを和らげていく治療法です。特に、アレルギー性鼻炎の人にとっては、長期的に症状を軽減させる可能性のある選択肢ですし、間接的に喘息症状の改善にもつながることがあります。

喘息というと「子どもの病気」「少し苦しいくらい」と軽く捉えてしまう人もいますが、重い発作は命に関わることもあります。実際、発作時の苦しさは経験したことのない人には想像を超えるものです。吸っても吸っても空気が足りない。そんな恐怖の中で息をすることを想像してみてください。

テレサ・テンさんのように、芸術的な才能に恵まれながらも「喘息の発作に命を奪われてしまった人がいる—」これは決して遠い世界の話ではありません。日頃の症状を軽く見ず、早めに医療機関での相談や検査を受けることが、将来の重症化を防ぐ第一歩です。もし「最近、咳が続いている」「夜中や朝方に苦しくなる」「花粉症もあるけど、春になると息も苦しい」といった自覚がある人は、ぜひ一度、呼吸器内科やアレルギー科にご相談ください。今の医療には、あなたの呼吸を守るための選択肢がたくさん用意されています。

深呼吸ができる日常は、当たり前のようでいて、決して当たり前ではありません。自分の息を大切にし、健やかな毎日を過ごしていきましょう。

企画 一般財団法人 里仁会