- 発行日 :
- 自治体名 : 長野県伊那市
- 広報紙名 : 市報いな 令和7年4月号
昨年度、公民館講座で「しめ飾り作り」を行い藁(わら)を綯(な)った。
私が初めて藁を綯ったのは小学生の頃だ。父が藁を数本ずつ手に取り、その二本をより合わせることで荒縄になっていく様子を見て「あの掌(てのひら)の中ではどんな不思議なことが起きているのか」と面白かった。縄が細くなってくると数本ずつ藁を継ぎ足しては同じようによっていく。すると途切れることなく縄になっていくことに感動した。よく見ると、数本の藁がそれぞれよられ二本となり、それをまたよって一本となっている。藁を「よりながらよっていく」という技術が掌を擦り合わせることで出来ているのを見て「こんなに難しいことが自分にできるのか」と思った。見様見真似で藁を持ち、掌で擦り合わせていくと、何となく荒縄が出来ていく。藁を持って両手で擦り合わせると綯えることが驚きで、先人の知恵を体感した気持ちになった。
さて、父は「しめ飾りは縄と違うから、左巻きに綯うんだ」と言った。諸説あるが、昔から右と左では左の方が高貴とされていることが理由の一つであるらしい。
講座が始まってから一時間、左巻きの立派なしめ飾りがそれぞれの手から生まれ、新しい年の各家に福が訪れるだろうとうれしい気持ちになった。
富県公民館長 下島一道(しもじまかずみち)