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「ここにいてもいいんだ」声かけがつくる居場所

■自分は役に立たない?

図表2-2-1-1-16 自己認識:自分は役に立たないと強く感じる(性別、年齢別)

右の表は、令和4年度内閣府「若者の生活と意識に関する調査」の「自分は役に立たないと強く感じる」という項目における調査結果です。15歳から39歳までのおよそ4人に1人が「あてはまる」・「どちらかといえば、あてはまる」と答えています。今、社会では、居場所づくりが盛んに取り上げられていますが、「役に立たない」と感じることが、「自分はここにいてもいいのだろうか」という思いにつながり、多くの人が自分の居場所を見失っているとしたらこれほど悲しいことはありません。人は、役に立つからそこにいてもよいのではなく、誰もが〝ありのままで受け入れられること〞が重要なのではないでしょうか。そんな居場所づくりが今、求められているのです。

■〝居場所〞と感じられること
私自身が「ここにいてもいいんだ」と感じ、安心することができた体験を二つ紹介します。
一つ目は、周りから私自身への声かけがある時です。それは、「この前の○○、よかったですよ」と褒めてもらった時だけでなく、「これって大丈夫ですかね」「こうするといいんじゃないですか」という相談やアドバイスなど、何気ない会話の中で感じることが多いです。ちょっとした会話のやりとりの中で、良いことも悪いことも含めて、〝自分のために〞声をかけてくれていると感じられ、心があたたかくなりました。きっと、相手の声かけの中にある小さな心遣いが自分の存在を認めてくれていることにつながり、「ここにいていいんだ」と自分の居場所として感じられたのだと思います。
二つ目は、自分への直接的な関わりではなく、「居心地がいいな」と感じた飲食店のことです。そのお店は、入店した瞬間からあたたかい雰囲気を感じました。なぜそう感じるのか、店内を観察してみると、接客時のスタッフの声かけのトーンがとても穏やかで、テンポよくやりとりが交わされていました。また、スタッフ同士でもどんどん声をかけ合っています。

「後ろ、熱いの通るよ」「はーい」
「そろそろパスタ茹で上がるよ」
「お客様にサラダ持っていきますね」
「ありがとう」
「ミートボール時間かかるけど、大丈夫かな」
「確認してきます」「ありがとう」
「お客様にオッケーいただきました」
「ありがとう、助かる」

次々に交わされるリズムのよい声かけが活気をもたらし、お店全体にあたたかく心地よい雰囲気を生み出しています。このやりとりには、相手を気遣う言葉、気遣いに対して感謝や思いを伝える言葉があります。そして、それがごく自然に目の前で展開されていくのです。その場にいる誰もがスタッフ同士の信頼関係に気付いたはずです。もちろん、客の一人である私にも心地よい雰囲気が伝わり、「ここにいていいんだ」と安心感を与えてくれているのだと気付きました。

■居場所づくりとは
「ここにいてもいいんだ」と人が安心して生活していくためのきっかけは、日常のちょっとした声かけから生まれてくるのだと思います。その小さな声かけの積み重ねこそが、私たちの〝心の結(ゆい)〞となっていくのです。そして、その結(ゆい)は直接的な関わりがある人だけでなく、そばにいる周りの人にも伝わり、居心地のよさとなって広がっていきます。
紹介した飲食店のように、相手を気遣ったり、その気遣いに対して感謝を伝えたりするような小さな声かけが、皆さまの目の前にある関わりを出発点とし、誰もが「ここにいてもいいんだ」と思えるような素敵な居場所となって広がっていくことを願っています。