くらし こんにちは、教育長です

■「一枚の写真」
教育長室の私のロッカーに一枚の写真が貼ってあります。ホームラン世界記録を持つ王貞治さんの写真です。
もう4年ほど前になります。市内4中学校が統合する前年、稲梓中学校の備品等の頒布会がありました。手に入れたものが今我が家に、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
夕方になり、品物を抱えた市民の姿もまばらになったので、当時放送案内役だった私は、終了の放送を入れて何もなくなった校内を見回りました。最後の職員室に入ると、黒板にマグネットで斜めに寂しげに留められたこの写真があったのです。誰も持っていかなかったのですね。横30センチ、縦40センチのかなり古いカラー写真です。
そこには王貞治さんの一本足で立つ姿がありました。黒いヘルメットのひさしの陰には白球を迎え撃つ眼光鋭く、木製バットを握り構える腕は筋骨隆々。体重を乗せる左足は地面から垂直にまっすぐバランスを保ち、右膝は高く上がる。まさにライトスタンドへの放物線を放つ瞬間です。今の選手のように、サポーターもバッティンググローブもありません。テーピングもリストバンドもプロテクターも、身に付けるものは一切ありません。白いユニフォームなのでホームグランド後楽園球場での阪神との伝統の一戦でしょうか。王さんの他には、投球を受けようと大きく構えるキャッチャーミットだけが艶やかに写っています。田淵選手かも…、と想像したりしています。
零コンマ何秒での一瞬を鋭く捉えようと、素手で勝負に挑むバランスのとれたアスリートの鍛え抜かれた体。数々の記録やエピソードを残している王さんの野球人生が教材として扱われ、この一枚の写真を使った道徳科の授業が中学生に展開されたのかもしれません。並々ならぬ努力で鍛え抜かれた体にも、しなやかさとバランスを兼ね備え、何も身に付けぬ素手での真っ向勝負。この写真を見ると、王さんから毎日道徳の授業を受けているようで、自然と背筋が伸びるのです。