くらし 《特集》私は私らしく、認知症と歩む(2)

■認知症の家族を持つ人の声

◆大切なのは一人で抱え込まないこと
菅原陽子さん
認知症の母と障害のある夫・娘の3人の介護を同時にこなしています。忙しい日々の中でも仕事を続け、「自分らしさ」を保っています。

○3人を介護する生活
私は今、重度の障害を持つ娘と病気で倒れた夫、そして認知症の母の3人を介護しながら飲食店で働いています。
母の物忘れが始まったのは5年ほど前です。今では日常生活のほとんどに付き添いが必要になりました。夕方にふらっと外に出て行ってしまい、1時間半も帰ってこなくて、みんなで探し回ったこともあります。
介護生活で大切にしているのは、一人で抱え込まないことです。母の認知症は、地区の役員をしていた時に、皆さんにお伝えしました。「やっぱりそうだったのね」「これからは声を掛けるよ」という言葉があり、とても心が軽くなりました。

○仕事を続ける理由
「働きながらの介護」は大変だと思われがちですが、仕事を辞めて介護に専念すると「介護をしなくてはならない」という気持ちになります。
「仕事があったからできなかった」という良い意味での「逃げ道」ができます。もし同じように悩んでいる方がいたら、時間を短くしたり、働き方を変えたりしてでも、仕事は続けた方がいいと伝えたいです。

○自分らしさを保つ
母は、毎日大量に出る洗濯物をきれいに畳んでくれるんです。それは今、母の大切な「仕事」になっています。私一人では手が回らないので、本当に助かっています。
自分の時間を作るのも大切ですが、時間が取れたときにはリフレッシュのためにラーメンを食べに行ったり温泉に行ったりしています。
夢は、まだ行ったことがないハウステンボスに行くこと。家族を置いては行けないので、みんなが動けるうちにやらないと。ショートステイなどをうまく利用して、いつか実現させたいですね。

◆Aさん(匿名)
若年性認知症の妻を介護しながら、仕事と趣味に励んでいます。

○妻と歩む「主夫」の毎日
妻が58歳で若年性認知症と診断されてから8年。今じゃ家のことは全部俺がやる「主夫」ですよ。大変なことも多いけど、女房がそばにいてくれるだけで、やっぱり嬉しい。俺にとっては生きがいですからね。
認知症になっても、昔と変わらず穏やかなところはそのまま。歌番組を観て一緒に口ずさんだり、俺が帰るとニコニコしてくれたりするんです。そういう顔を見ると、こっちも自然と笑顔になる。自分の趣味の時間で気分転換もしながら、これからも2人で歩んでいきたいですね。

◆認知症をオープンにして、後悔したことなんて一つもないよ
椎名良吉さん
65歳で認知症と診断された妻を、7年間自宅で介護した経験を持っています。妻は8年前に他界し現在は一人暮らし。

○娘からの電話
最初、俺は分からなかったんだけど、女房が自分で「なんか自分がおかしい」って感じて一人で病院に行ってさ。そしたら「認知症の気があるからご主人呼んでください」って言われて。女房は俺に言えなくて娘に電話してさ。娘から電話が来てすぐ病院に迎えに行ったよ。

○泣いて笑って支え合って
女房と出かけるときは、自分の首に「介護マーク」を下げてさ。そうするとみんなが親切にしてくれる。あれには本当に助けられた。トイレの介助だって、介護マークを付けていれば、変に思われないもんな。でも、介護マークを付けている人って全然見ない。市役所に行けばタダでもらえるのに。
介護マークを付けて、女房といろんなところに行ったよ。熱海、伊東、三島…。河津桜も見に行ったし、毘沙門天にも行った。買い物に行くとさ、気づいたら女房の姿が見えなくなって、見まわしたら知らないおじさんの隣にぴたっとくっ付いていた(笑)。おかしかったなぁ。
それでも、なんでか急に意識がクリアになる時があってさ。夜「何で自分はこんな風になっちゃったんだ」って泣いていたときがあった。

○隠さない勇気が生んだ幸せ
認知症を恥ずかしいなんて思わなかった。誰でもなるかもしれないし、誰も悪くない。なのに、みんな認知症を隠そう隠そうとするから、苦しくなるんだよ。認知症をオープンにして、後悔したことなんて一つもないよ。隠そうとすると、自分や家だけで抱え込まなきゃならない。本人も家の中で隠してって、それじゃあみんな幸せじゃないよ。
家の近所で女房が迷子になることが2回もあった。認知症のことは近所の人も知っているから、「奥さん迷子になってたよー」ってすぐに教えてくれるんだよ。認知症のことを誰にも言わないでいたら、見つけられなかったかもしれないなぁ。
大変なこともいろいろあったけど、今思うと面白かったな。

●介護マーク
認知症の人の介護は、外見では介護していることが分かりにくいことがあります。介護をする人が介護中であることを周囲に理解してもらうためのものです。
配布場所:介護保険課、地域包括支援センター

●介護を語る会
介護している仲間と悩みを共有し、ほっとできる場です。介護する人も、される人もお互いに笑顔で暮らせる方法を一緒に考えましょう。地域包括支援センターの職員も参加していて、その場で相談することができます。
日時:偶数月の第1金曜日13時30分~15時
会場:市民文化センター3階会議室

問合せ:市介護家族の会(杉山)
【電話】090-1984-9977