健康 私のカルテ No442

■腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術について
津島市民病院 外科医師
中根有登(なかねゆうと)

◇鼠径(そけい)ヘルニアとは
鼠径とは太ももの付け根あたりを指し、ヘルニアとはラテン語で「脱出」を意味します。鼠径ヘルニアは、本来お腹の中にある腸や脂肪が、皮膚の下に脱出してポッコリ膨らむ良性疾患で、一般的には「脱腸」と呼ばれています。根本治療は手術しかありません。

◇症状
鼠径部にやわらかい膨らみができます。立った時や腹部に力をかけた時に膨らみやすく、通常は手で押し込んだり、横になったりすると膨らみが引っ込みます。

◇放っておくとどうなる
徐々に膨らみが大きくなり、違和感や痛みなどの症状を伴うことがあります。押しても膨らみが全く戻らず、硬くなって強い痛みを伴う場合、これを「嵌頓(かんとん)」といいます。腸がはまりこんで血流が悪くなって腸が腐ってしまったり、腸の内容物の流れが悪くなって排便が止まったり、腹部全体が張って嘔吐したりするおそれがあります。このような場合、命に関わる可能性があり、緊急手術を要することがあります。よって、基本的には鼠径ヘルニアとわかった時点で手術をおすすめしています。

◇原因
お腹の壁は、固い組織である筋膜と筋肉、さらに内側に腹膜という薄く伸びやすい膜で構成され、これらが腸管などの腹部臓器を包んでいます。その筋膜に弱い部分があると、そこに圧力が集中することで筋膜が裂けてヘルニア門という穴を生じます。その穴を通じて伸びやすい腹膜が皮膚の下に向かってたるみ、ヘルニア嚢(のう)と呼ばれる袋を形成します。このヘルニア嚢を通じて腸管や腹腔内脂肪が皮膚の下に脱出してしまうのが鼠径ヘルニアです。小児でみられるものは、生まれつきヘルニア嚢が存在することが原因です。成人では加齢に伴って組織が弱くなることが原因で、特に60歳以降で多くなります。長時間の立ち仕事や、重いものを持ち上げる仕事、慢性的な便秘や咳、肥満の方で腹部に圧がかかりやすく、発症しやすいと言われています。

◇手術方法
ヘルニアの内容物をお腹の中に戻し、ヘルニア門を塞ぐ手術が必要です。手術法は現在、主に「鼠径部切開法」と「腹腔鏡下手術」の2種類があります。最近は術後の痛みが少ないことや、創が小さく済むことから、腹腔鏡下手術が主流となりつつあります。

◇腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術とは
臍(へそ)とその左右にポートという筒を3本挿入し、お腹を二酸化炭素で膨らませ、筒を通じて細長いカメラと器具を挿入し、お腹の中で操作を行います。腹膜を切開してヘルニア門を露出し、メッシュという人工のシートで門を十分に覆い、タッカーという医療用のネジで腹壁に固定します。最後に切開した腹膜を縫い閉じて終了です。全身麻酔で1時間半程度の手術で、術後1〜2日で退院可能です。

利点:
・創が小さい
・術後の痛みや違和感が少ない
・再発率が低い
・お腹の中から穴を観察でき、確実な診断ができる
・両側にヘルニアがある場合も、同じ創で治療できる

欠点:
・全身麻酔が必須
・値段が高い
全身麻酔ができない病気のある方や、以前に腹部手術を受けたことのある方で、鼠径部切開法が選択される場合があります。

◇さいごに
当院では、術後の痛みが少ない腹腔鏡による鼠径ヘルニア手術を積極的に行っています。鼠径部の膨らみや違和感を感じたら、気軽に当院外科を受診してください。