くらし 私のカルテ No443

■緩和ケア・緩和ケア病棟について
津島市民病院 名誉院長
神谷里明(かみやさとあき)

◇緩和ケアとは
緩和ケアとは、あらゆる苦しみ(体の痛み、不安、精神的な苦痛、家庭、社会における役割を果たせないことへの葛藤、自分の存在意義に対する不安など)を少しでも軽減するために行われることです。現在は、悪性腫瘍(がん)を患った方が対象になることがほとんどですが、がんで亡くなる方は全体の3分の1であり、他の3分の2の方は他の疾患(心臓病、肺炎、脳血管障害、認知症など)で亡くなっています。そのため緩和ケアは本来、がん以外で亡くなる方も含めたすべての方が対象になります。がんが原因で亡くなる場合、最後の数カ月で病状が進行して症状が出現するため、比較的短い期間(数カ月から数年間)が緩和ケアの対象となることが多いです。しかし、慢性心不全や慢性呼吸不全の場合は、数年から10年以上にわたる期間症状が徐々に進行し、悪くなったり良くなったりを繰り返しながら死に至ります。認知症の場合は、10年以上かけてゆっくりと進行し、最終的には自分で判断することもできなくなり死に至ります。このように、死に向かうのは同じでも時間的要素が大きく異なっており、対応も違ったものが求められます。

◇緩和ケアとACP
緩和ケアはあらゆる苦痛をなくすか、軽減することを目的とします。しかし、必ずしも目的を達成できるとは限りません。できないことも多くあります。それでも今できることと、予防できること(将来起こり得ることが回避できれば)を医療関係者、福祉関係者、行政関係者だけでなく家族及び患者さん本人も含めて一緒に行うことが大切です。
人は必ず死にます。そして誰もが最後まで自分らしく生きたいと思っています。しかし、なかなか最後まで自分の思った通りには生きられません。体が自由に動かなくなったり、自分の考えを周りにきちんと伝えられなくなったりして、死に近づいていくことが多いと思います。自分で考えることができ、自分の生き方を決められる間に最後までどう生きたいのか考え、周りの人と話し合い、伝えることが大事です。これがACP(advance care planning:人生会議)につながり、自分の生き方を自分で決めることになります。

◇緩和ケア病棟
がん終末期の患者さんが最後まで自分らしく過ごす場所の1つとして、緩和ケア病棟があり、津島市民病院には緩和ケア病棟があります。緩和ケア病棟は、終末期がん患者さんのために設けられた専用の病棟です。静かなゆったりと時間が流れる環境の中で、最後まで自分らしく生きられるように考えられ、作られた場所です。過去には、一度入ったら二度と生きては出られない病棟のイメージがありました。しかし、現在は症状が落ち着けば退院し、自分の希望する場所で療養を続けることもできます。状態が変化し入院が必要であれば、再入院が可能です。
緩和ケアは、緩和ケア病棟などの特定の場所でのみ行われるのではなく、すべての場所において行われます。病院、診療所だけでなく自宅、施設においても同じことができるようにしていかなければなりません。入院中または外来通院できる方は医師、看護師、薬剤師などがかかわり、自宅、施設での療養を望まれる方に対しては訪問診療、訪問看護などにて在宅緩和療法が可能となっています。最後まで自分らしく生きられる場所はどこなのか、自分自身で決められる時によく考えてみてください。