文化 [文化財特集]大狭間湿地 次世代に残したい 貴重な自然

豊明市内には初夏から盛夏にかけて淡紅色の可憐な花をつけるナガバノイシモチソウで有名な小廻間湿地と、初秋にシラタマホシクサが繁茂する大狭間湿地があります。ここでは、大狭間湿地を中心に記述します。

◆大狭間湿地とは
豊明市指定天然記念物である大狭間湿地は、豊明市北東部の沓掛町大狭間と皿池上地内にあるアラカシ、ヒサカキなどの常緑樹やコナラ、アベマキなどの落葉樹に囲まれた標高約43mの丘陵地帯にある湧水湿地です。大狭間湿地は、地質的には第三紀鮮新世から第四紀更新世にかけて(今から約350万年前から80万年前に)堆積してできた東海層群矢田川累層の砂礫層とシルト層(粘土と同様な性質を持ち、砂と粘土との中間の細かさの土の層)からなる不透水層に、背後の丘陵地に降った雨水が地中に浸透後、谷筋部分から湧き出し、さらにその周囲で自然崩落が起きたことで徐々に拡大し、湿地の原型が形成されたと思われます。湿地の南側を中心に周囲の丘陵地から湧き出した水は栄養分が少なく(貧栄養)、傾斜に従って北側に向かって流れ、湿地の北端には水がたまり、メダカなどが生息する小さな池ができています。ここは、昭和40年ごろまでは水田として利用されていたようですが、その後、水田は放棄されたことで貧栄養の環境に適したさまざまな植物が侵入し、現在のような大狭間湿地ができあがったと考えられます。東海地方の丘陵地には、このような湧水湿地が多くあり、湿地内やその周辺には東海丘陵湧水湿地特有の動植物が見られます。たとえば、シラタマホシクサやシデコブシ(写真1)などの希少な植物種(東海丘陵要素植物群)や体長2cmほどの日本で一番小さいハッチョウトンボ(写真2)なども多く生息しています。
初春にはシデコブシ、初夏にはカキラン(写真3)、夏にはサギソウやヌマトラノオ、秋にはサワヒヨドリやスイランが湿地を彩ります。特に、初秋に見られるシラタマホシクサは、小さな白い花が星のように緑の湿地一面に広がり、すばらしい景観を呈しています(写真4)。
そのほか、ミミカキグサ(写真5)、モウセンゴケ、ホザキノミミカキグサ、トウカイコモウセンゴケなどの食虫植物も多く生育しています。ちなみに、大狭間湿地と近隣の小廻間湿地の環境は極めて酷似しているにもかかわらず、小廻間湿地に生育する愛知県指定天然記念物の食虫植物ナガバノイシモチソウや希少種のゴマクサが、大狭間湿地ではほとんど観察されないことは、大変興味深いことです。
かつては大狭間湿地のような湿地は、このあたりの丘陵地には多く点在していたと思われますが、近年の宅地開発や土地改良事業などによる自然改変によって減少の一途をたどっています。なお、湿地は生きていて、静的に安定しているのではなく、動的に常に変化しています。放置されれば乾燥化が進行し、やがては森林(照葉樹林)へと変化していきます。また、近年の地球温暖化の影響も受けているように思われます。

◆湿地の維持・保全
このような湿地を維持し保全していくためには、湿地植物の生育に悪影響を及ぼすヨシ、ヌマガヤ、ササなどの成長が速く繁殖力が強い植物の除去をはじめ、大量の水を吸収する周辺樹木の間伐、枯死した植物の除去、客土による富栄養化の進行阻止など、森林化の進行を遅らせる不断の環境整備に努めていかなければなりません。現在、市民ボランティア「豊明二村山自然観察会」の尽力により大狭間湿地の保全活動が行われていますが、次世代にこの湿地を残していくためには若い人たちの参加・協力が不可欠です。そのためにも、地元の小・中学生や高校生に、環境学習の場としてこの湿地を積極的に利活用してもらい、少しでも多くの若者が興味関心を持ち、自然保護、環境の保全、生物多様性の維持の大切さを理解してもらうことができれば、かけがえのないこの地域の貴重な自然遺産が次世代に受け継がれていくと思います。なお、豊明市では大狭間湿地と豊明のナガバノイシモチソウ(小廻間湿地)について、広く一般の方々にもっと知っていただくため、毎年5日間の一般公開を実施しています。時間があれば、ぜひ、足をお運びください。また、カラット内の豊明市歴史民俗資料室では、「守ろうつなごう豊明の自然」をテーマに、豊明市教育委員会と豊明市歴史民俗資料調査研究会が共催で企画展を開催しています。一度、来室していただければ幸いです。

文化財保護委員 鬼頭 邦英

《参考文献》
・豊明市史 資料編補七 自然
・豊明市史 総集編

◆一般公開
▽大狭間湿地
とき:9月6日(土)・7日(日)、10月11日(土)午前9時~11時30分(最終受付午前11時10分)
ところ:沓掛町大狭間、皿池上地内

▽豊明のナガバノイシモチソウ
とき:9月6日(土)・7日(日)午前9時~11時30分(最終受付午前11時10分)
ところ:沓掛町小廻間地内

◆企画展
▽「守ろう つなごう豊明の自然」
とき:11月2日(日)までの土曜・日曜日(8月31日(日)、9月28日(日)10月26日(日)は除く)午前10時~午後4時
ところ:共生交流プラザ「カラット」南館1階歴史民俗資料室

※詳しくは広報紙28~29ページをご覧ください。

問合せ:生涯学習課文化・スポーツ係
【電話】0562-92-8317