くらし シリーズ人権 第110回

■「なりたい」を応援したい
「ちょっと意外でした」
土産物店で購入したアクセサリーの金具取り換えを頼んだ私は、美しい細工が施された商品が並ぶ売り場で、工房での作業が終わるのを待っていました。
「このアクセサリーを作ったのは、この人です!」と販売員に声をかけられ、振り向いた私の目の前に立っていたのは、がっしりとした体つきの男性でした。そこで私の口からポロリと出たのが、冒頭の言葉です。この瞬間、男性は笑っていたものの表情が少し曇ったように見えて、私は「やってしまった」という気持ちでいっぱいになりました。
繊細優美なアクセサリーを眺めているうちに、私は作り手が女性だと思い込んでいたのです。そのため、販売員の言葉を「想像と違ったでしょう?」という意味に受け取ってしまったのでした。
思い込みや偏見を無意識に持つことで、男女の役割を固定的に考えてしまう「ジェンダーバイアス」に関しては、職場の研修で学ぶ機会があり、自分は理解しているつもりでした。
また、自分自身が実際に女性への偏見を感じた経験もありました。大学受験の時、友人から「第一志望を諦めきれないので来年もう一度挑戦したいけれど、父親から『女が浪人なんかするな』と反対されている」と相談をされました。人生の節目の選択肢を「女だから」という理由で断たれることに納得できるでしょうか。私は心から彼女を応援したいと思うと同時に、それまで自分ではあまり意識していませんでしたが、女性が挑戦しようとすることが否定的に捉えられ、男性よりも人生における選択肢が狭められてしまっている現実に驚き、そうした女性への偏見に対してとても腹が立ちました。結局、彼女は父親を説得して予備校に通い、翌年第一志望に合格し、卒業後に希望の職業に就きました。なりたい自分を実現していく彼女を尊敬し、女だからできないということはないのだと改めて感じました。
このように、ジェンダーバイアスについて学んだり考えたりする経験が過去にあったにも関わらず、偏見を持っていた自分を情けなく思い、今回のことを同僚に話してみると、「多数派が悪気なく、少数派を『珍しい』と感じてしまうのはよくあることだね。言葉で失敗しないように一呼吸おいてから発言するのも大切だけど、まずは自分の意識を変えられるといいね」という意見が返ってきました。同僚との対話の中で自分の言動を内省することができ、次に同じようなことがあった場合は、ジェンダーバイアスにとらわれることなく、出来上がった作品そのものやその人の能力にまず目を向けられるようになりたいと思いました。
あの時、工房の男性に本当に伝えたかったのは、「あなたの作ったアクセサリーがとても気に入りました」という言葉でした。皆が自信を持ってなりたい自分になれるように応援できる私でありたい、そして、そんな温かな社会をつくる一員でありたいと思った出来事でした。
(40代、女性)

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