くらし 特集 創業という、選択(1)

■創業支援等事業
度会町では、創業支援等事業計画を策定し、度会町商工会などの商工団体と連携し、創業に向けた支援を行っています。しかし、「地元で新しく何かをはじめたい」と思ってもなかなか踏み出すには勇気がいります。
そこで、実際に令和5年に創業したおふたりにどのような想いで創業し、苦悩や不安をどのように解決してきたか、お話を伺いました。

◆不安を成果へと導いてくれたのは、たくさんのご縁。
福井良隆(よしたか)さん(大野木)
令和5年1月に『敷居の低い珈琲専門店』をコンセプトに町内初の自家焙煎珈琲店をオープン。

○創業のきっかけは?
もともとは缶コーヒーやコンビニのコーヒーを飲む程度でしたが、コーヒー好きの人が周りにいたことをきっかけに、教えてもらいながら興味本位で豆を挽き始めました。絵が好きなこともあり、ラテアートというものがあるというのを知ってからは独学で挑戦し、地域のラテアート大会に出場してみたら優勝することができました。その頃はまだ自分でお店を開くことは考えていませんでしたが、自分が焙煎したコーヒーを職場の人に飲んでもらったり、珈琲店などへ持ち込んで店主に飲んでもらったりするうちに、自分もやってみたいという気持ちが強くなってきました。
飲食店で働いた経験が全くありませんでしたが、勉強のために飲食店で働いてからスタートすると、年齢的にも厳しくなると思い、21年半勤めた伊勢市社会福祉協議会を退職して創業しました。

○創業準備はどうしましたか?
コーヒーショップを営む友人に教えてもらったり、自分で調べたりして準備しました。
創業時には開店そのものの準備だけでなく、保健所や税務署などの手続きが必要になってきます。どの作業をどのタイミングで行うべきか、誰に相談すればよいかが分かっていればもっとスムーズにできた部分もあったかと思います。
商工会主催の創業セミナーは、創業後に受講しました。このセミナーは、自分のお店を見直す機会にもなり、自分が目指すお店像を再認識することができました。また、他の受講者の方々の意見も自身のお店の参考になったりしました。

○創業にあたり困ったことはありましたか?
一人で営業していることもあり、その場ですぐ誰かに相談できる環境ではありませんでしたが、いろんな人と知り合いになることで相談できたり、その人を通じて新たなつながりができたりすることでさまざまな課題を乗り越えることができました。地元の洋菓子店やお客さん、地域の人など、これから深い関係になる人とはその都度必然的につながって助けられてきました。

○今後の展望は?
地域に根差した珈琲店を目指し、現在は前職の想いもあって、地域と福祉的な関わり方を模索する中で、ひきこもりや障がいのある人などの就労や、外出の体験の場として活用してもらっています。今後も、お客さんに喜んでもらえるコーヒーを提供することはもちろんのこと、地元の特産品を活用した商品を考案・提供したり、私自身も地域の魅力をもっと学び、さらに発信していきたいです。

fukui coffee
度会町大野木1371
【電話】080-2135-0774

◆一度きりの人生。やりたいことをしよう。
丸屋陽子(ようこ)さん(立岡)
自身の大病をきっかけに29年間勤めた総合病院を退職し、福祉タクシー事業を創業。

○福祉タクシーとは?
福祉タクシーは車いすや寝たきりの方でも介助を受けながら安心して利用できるタクシーです。主に買い物や通院、入院・退院などに利用され、けがや妊娠などの理由でも、公共交通機関をひとりで利用するには不安がある方ならどなたでも利用できます。料金は通常のタクシー料金に機材料や介助料などが上乗せされます。

○創業のきっかけは?
総合病院で看護師として働いていましたが、大病で手術を受け「死」を意識するようになりました。「人生一度きり、やりたいことをしよう」と思い、その中のひとつだった「起業」に挑戦しました。
病棟勤務の傍ら、入院中の患者さんが、医療機器や吸痰(きゅうたん)が必要で、自宅への搬送が不安などの理由から最期を自宅で迎えたい方が帰れないのを不憫(ふびん)に思うことがありました。
そんな中、看護師である自分なら医師の指示のもと医療行為ができ、もっと役に立てるのではないかと考え、自宅のある度会町で福祉タクシー事業を始めました。
創業を思い立ち、商工会の創業セミナーに参加したり、県外の勉強会へ足を運んだりしました。商工会の創業セミナーでは、自分のやりたいこと、しなければならないことが整理できました。

○屋号の由来は?
「三方よし」は近江商人の商いの精神「売り手によし、買い手によし、世間によし」からとりました。総合病院で勤務していたころより収入は減ってしまいましたが、旅行や出かけることを諦めていた利用者さんの喜んだ顔を見ると私も嬉しくなります。

○創業にあたり困ったことはありましたか?
利用者さんを自宅へ迎えにいった際、家の段差や敷地の砂利に車いすの車輪がとられたり、介護度の高い方を一人で運び出すのに苦労したりしたことがありました。今は夫も仕事をやめ、協力してくれるようになりました。おかげで2人以上での搬送が必須要件となる民間救急(患者等搬送事業)の認定を受けることができ、事業の幅が広がりました。軽症患者の救急車の不適切利用が叫ばれる昨今、救急車の適正利用にもつながればと思います。

○今後の展望は?
まだまだ福祉タクシーの知名度が低く、介護度が高い方の送迎を家族でなんとかしようとして、大変な思いをされていることがあります。SNSやイベントなどで福祉タクシーの啓蒙(けいもう)活動を行い、安心して移動できるということをもっとたくさんの方に知ってもらいたいです。また、災害時の搬送でもお役に立ちたいと思っています。

三方よし
【電話】0596-62-1679