- 発行日 :
- 自治体名 : 滋賀県近江八幡市
- 広報紙名 : 広報おうみはちまん 2025年8月号
■文化財の保存修理(4)
安土山下町中掟書(さんげちょうちゅうおきてがき)
八幡山下町中掟書
今回は、令和4年度に修理を行った安土山下町中掟書・八幡山下町中掟書を紹介します。
安土山下町中掟書は、天正5(1577)年6月に織田信長が安土城下町に向けて出した楽市政策に関する掟書で、42・3cm×150・3cm、三紙を貼り継いだ掟書十三箇条の長大な文書です。附(つけたり)とした八幡山下町中掟書は、天正14(1586)年6月に羽柴(豊臣)秀次が八幡山下町に向けて出した掟書十三箇条で、35・1cm×207・9cm、四紙を貼り継いだ文書です。内容は安土山下町中掟書を踏襲しつつ、湖上交通に関してや、周辺の市(いち)を八幡山下町に加えることなど、いくつかの条項が加除されています。安土から八幡へ、城とともに城下町も移動した変遷を伺うことができる貴重な資料のため、2点合わせて平成2年6月29日に国の重要文化財に指定されています。
今回の修理において、改善が必要な箇所はいくつかありましたが、最大の目的は両掟書に確認されたシミへの対応でした。シミの悪化を防ぐため、クリーニングを依頼しました。当初はシミの原因物質の拡大を防ぐため、汚染している可能性があった裏打紙をはじめとした表装紙全ての取り換えを予定していました。しかし修理の過程で、史料が裏打ち不要な強度を保っていることや、料紙継目の裏面には黒印や花押があること。また、本来の形態は裏打ちが施されていない※まくりの状態であったことも踏まえ、関係者で協議を行った結果、当初の計画を変更して本来の形状を復元することになりました。
そのため、これまでは裏打ちなどが施された巻子装(かんすそう)でしたが、修理後はまくりの状態になりました。保存時は一枚ものとなった本紙を、折りたたまずに仮巻きの芯に巻いて、元の保存箱に収納しています。
修理完了後からは、滋賀県立安土城考古博物館に寄託しています。紙製の文化財は特に繊細で、環境からの影響を大きく受けやすく、公開にもリスクが伴います。そのため、重要文化財の古文書は、文化財保護法で年間の公開可能日数が定められています。公開が貴重となってしまいますが、大切な史料を後世に守り受け継ぐためのものです。
公開される際には、修理によって本来の姿により近くなった掟書をぜひご覧いただきたいです。
文(文化振興課・永福)
※まくりとは、額装・軸装などの装丁をしていない状態のこと。