文化 佐川美術館アートコラム(92)

■鉱石から生まれる芸術
―岩絵具(えのぐ)で描かれる日本の美

佐川美術館
学芸員:藤井 康憲(ふじいやすのり)

大阪・関西万博が開幕する中、「日本らしさ」という言葉を耳にすることが増え、日本の伝統的な建築技法が用いられた会場の「大屋根リング」が象徴するよう、今や日本古来の技法や素材に注目が集まっています。
芸術の分野でも、各地の美術館の展覧会などで「日本画」がクローズアップされる機会が増えていますが、「岩絵具」という伝統的な画材が用いられることをご存じでしょうか。
岩絵具の歴史は古く、古墳時代に中国より伝わったとされ、鮮やかに彩色された古代壁画が発見されたことで一大ニュースとなった高松塚古墳にも用いられていました。その名の通り、鉱石(岩石)を細かく砕いて粉末状にしたものに膠(にかわ)(動物の骨や皮から抽出したゼラチン状の接着剤)を混ぜて作る絵具です。砕かれた鉱石の粒子は細かくするほど色が淡くなり、粒子が荒いものほど色は濃く、同じ鉱石から10種類ほどの色合いを作り出すことができます。
原料となる鉱石にもさまざまあり、代表的なものだけでも宝石として知られるラピスラズリや水晶をはじめ、古来、群青(ぐんじょう)として珍重されてきた藍銅鉱(らんどうこう)(アズライト)や緑色の孔雀石(くじゃくいし)(マラカイト)が挙げられます。
多種多様な鉱石から生み出されるさまざまな色彩は、日本画の伝統とその奥深さを感じさせます。作品を鑑賞する際、誰がどんなモティーフを描いたのかといったことに注目されがちですが、絵具などの画材に注目することで、鑑賞の幅を広げてみてはどうでしょう。

※開館情報は、佐川美術館ホームページでご確認いただくか、電話〔【電話】585-7800〕でお問い合わせください。