文化 佐川美術館アートコラム(98)

■画家のこだわり 額縁
佐川美術館 
学芸員:上村 友理(うえむらゆり)

絵画の鑑賞後、作品に描かれていたモノや色使いを思い出せても、額縁まで思い出すことは少ないのではないでしょうか。作品を保護し、雰囲気を演出するなどの役割を持つ額縁は、絵画の付属物として、これまであまり注目されてきませんでした。しかし、近年は額縁の歴史的変遷や造形美についての書籍も出版され、古い物は貴重な資料や芸術品として見られる向きも出てきたようです。
絵画とともに発展し、時代や地域ごとに流行した型や様式の違いを含め、さまざまな意匠がある額縁の中でも、画家こだわりの額縁は作品との親和性の高さから必見です。例えば、主にフランスを活動拠点とした画家の藤田嗣治(ふじたつぐはる)(レオナール・フジタ、1886-1968)の手による額縁は、作品に合うよう画題一つひとつに合わせてデザインを考え作られています。作品と同様に時間と手間をかけ、誰に気負うことなくこだわりを追求し、独創性と親和性の両立した額縁を製作できるのも、作品を描いた本人ならではです。
また、理想の額縁をデザインし職人と共同で作り出す、自作にあえて古い時代の額縁を付けるなど、藤田だけでなく多くの画家たちがそれぞれにこだわりをもってきました。画家にとって作品を際立たせるドレスのような存在の額縁、私たちが作品の素晴らしさに感嘆する時、その理由の一つは、実はあまり意識していなかった額縁に隠されていると言っても過言ではありません。

※佐川美術館は施設改修およびメンテナンスのため長期休館中です。