文化 甲賀の文化財

◆矢川寺遺跡出土の伊賀焼
甲南町森尻の北東、杣川の河岸段丘上に鎮座する矢川神社には、神宮寺であった矢川寺という寺院がありました。一帯は埋蔵文化財包蔵地「矢川寺遺跡」として周知され、古代から近世にかけての遺構や遺物が確認されています。
矢川神社および矢川寺の記録である『矢川雑記』によれば、室町時代の矢川寺は僧坊七宇を擁していましたが、天正期の甲賀衆改易により寺領は没収され、衰退しました。近世の矢川寺は慶長二年(一五九七年)に再興されたと伝えられています。
再興後の本堂であった清浄院の敷地内で行われた発掘調査では、東側で礎石建物の根石とされる集石遺構が確認され、建物があったことが明らかになりました。また、西側では溝や井戸、水溜場を検出し、庭園として利用されていた可能性があります。
発掘調査では「矢川」の墨書銘が記された志野皿や、茶の湯の道具として使用された矢筈口水指などが出土しました。この水指は、胎土がきめ細かく硅石をほとんど含まないことから、伊賀焼と考えられています。さらに、伊賀市阿山町の西光寺窯跡出土品と類似していることから、西光寺窯で焼かれた可能性が高いと考えられます。
また、瀬戸・美濃の天目茶碗など茶の湯や懐石で用いられた陶器も出土しており、いずれも十六世紀後半から十七世紀初頭のものとみられます。これらは近世矢川寺の再興期と重なります。
矢川寺遺跡で発見された矢筈口水指は、現在、甲南ふれあいの館で展示中です。多彩な民具とともにぜひご覧ください。

問合せ:歴史文化財課 埋蔵文化財係
【電話】69-2251【FAX】69-2293