くらし 人権ほっと(215)

「テレビ報道と人権」
大阪教育大学 名誉教授
堀 薫夫

私は1980年代後半、福井市の山際にある大学にいた。大衆社会論という授業の中でよく見るテレビ番組を学生に訊いたところ、とんねるずやおニャン子クラブの番組名が多くあがった。当時福井県では、NHK以外テレビは2局(フジと日テレ)しか入らず、学生の観るテレビ番組は限られていた。軽佻浮薄(けいちょうふはく)なイメージを醸しつつも、フジテレビ系列の番組は人気だった。
あれから40年近く経って、時代の空気は大きく変わった。再びフジテレビをめぐる問題が注目されている。今度は「人権侵害(疑義)」という語とともに。有名タレントと女性の間のトラブルに対して、女性の人権が守られていたのか、コンプライアンスは機能していたのかといった文脈で出ている。女性の側の訴えを抑え、有名タレントと視聴率を優先していたのではないかという疑惑である。結果として、多くのスポンサー企業がCM提供を自粛している。
フジテレビに関しては、「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズが有名だが、人権侵害の要素を含む「楽しさ」がそこになかったのだろうか?宴席では、若い女性社員を有力者の接待役にすることが常態化していなかったのか?
現在、ネット文化の普及などにより、地方都市といえども若者はあまりテレビ文化に染まっていない。女性の社会進出も推進されている。しかし他方で、昭和末期のバブル時代の成功体験が忘れられない人たちもいる。しかしその成功体験の中に人権侵害の要素があったとしたら、そこにこだわり続けるのは時代錯誤だ。あの時出遭った学生さんらも、今では中高年期に差しかかっている。時代と文化、そして自分自身の変化を自覚するなかで人権を考えたい。

問合せ:人権推進課
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