しごと 【特集】奈良県文化財保存事務所のお仕事(1)

■玉置神社 社務所及び台所 解体保存修理事業
社務所全体を覆う「素屋根(すやね)」の中で修理工事を行っています!

◇呼ばれないとたどり着けない神社⁉「玉置神社」で大改修を実施中
標高1076メートルの玉置山。その山頂近くに鎮座する「玉置神社」は、第十代崇神天皇の時代、紀元前37年に、王城火防鎮護と悪魔退散のため創建されたと伝えられます。
古くより熊野・大峯修験の行場の一つとされ、神仏混淆のもとで玉置三所権現または熊野三山の奥の院と称され霊場として栄えました。明治の神仏分離令により神仏混淆を廃して以降は、玉置三所大神、更に玉置神社となり現在に至っています。また、玉置神社を含む大峯奥駈道は、平成16年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成遺産として世界文化遺産に登録されました。
境内には天然記念物の老巨樹群があり、高山の山中に豪壮な入母屋造りの本殿が鎮座し、荘厳な雰囲気を漂わせています。霊験あらたかであると評判が広がるとともに、その立地や道のりの険しさから、近年はSNSを中心に「神様に呼ばれないとたどり着けない神社」とも言われています。参拝者数は、令和元年度の約4万4千人から令和6年度は約9万人と年々増加していて、日本全国から人々が参拝に訪れています。
そんな玉置神社では、令和2年から「令和の大改修」の事業に着手しています。今回ご紹介する、玉置神社社務所及び台所の改修工事もその事業のひとつ。令和3年から社務所の解体改修工事が進められています。

◇重要文化財 玉置神社社務所及び台所
玉置神社社務所及び台所は、棟札から文化元年(1804年)の建立と判明しています。江戸時代末期、玉置神社の別当寺であった高牟婁院の主殿及び庫裡として建てられ、明治の神仏分離後は社務所、台所及び参籠所として使用されています。
建物は入母屋造銅板葺きの懸造(かけづくり)で、上質な書院建築と地階に参籠所を備えています。社務所内の各板戸には、狩野派の流れをくむ絵師による豪華な花鳥図が描かれています。改造が少なく、修験道に関係する建物としても希少価値があるとして、昭和63年に国指定有形重要文化財に指定されました。

◇石垣を積みなおし、再度組立て 奈良県文化財保存事務所が受託
社務所は建立以来、何度か修理が行われていますが、経年により雨漏りや軸部の傾斜が著しくなったため、本格的な解体修理に着手することとなりました。南側の石垣に緩み・はらみが見られるため、建物全体を一度解体して、石垣の積みなおしを行った後、再度組み立てます。このような大規模な修理は、文化元年の建立以来、初めてのことです。
修理は玉置神社から奈良県に委託し、文化財保存事務所玉置神社出張所が直営で実施しています。

◇文化財保存修理を受託している「文化財保存事務所」とは?
奈良県では、文化財保護にかかる組織体制として、文化財課と文化財保存事務所があります。
「文化財課」は文化財行政全般の企画管理、文化財の登録・指定、政策運営などを行います。一方で「文化財保存事務所」は、文化財建造物の保存修理工事の施工管理や学術的な調査を行っています。加えて、文化財保存事務所は文化財の修理工事専門の建築技師や大工などを正職員として採用しています。このような体制をとる都道府県は少なく、奈良県のほか京都府と滋賀県のみです。