しごと 【特集】奈良県文化財保存事務所のお仕事(2)

■奈良県文化財保存事務所ってどんなところですか?
簡単に言うと『調査もする工務店』ですね

令和3年から始まった玉置神社社務所及び台所の修理工事。現在は解体工事を行っている最中です。文化財ではない建物の解体工事とは異なり、文化財の保存修理は調査を行いながら作業を行うため、長期の工事となります。
さらに調査を進めていくと、新たな課題や発見がある可能性も。今後の調査の進展にも注目です。

◇調査と発見は「謎解き」のよう
玉置神社社務所及び台所が文化財となったのは昭和63年と比較的最近のこと。大規模な修理もはじめてなので、まず図面作成のための実測調査が必要でした。修理にあたっては、過去の修理歴なども重要な情報ですので、古文書や古写真の確認も進めます。建立後200年が経ちますが、小規模な修繕は何度も繰り返していることが分かっています。
建物の解体と調査を進めると、隠れていた昔の姿が見えてきます。
建物の柱などの部材、当時の道具の使用跡といった修繕や改造の痕跡から、その工事がいつ頃されたのか、当時の人々がどのような意図で手を加えたのか、元はどのような姿だったのかを検討します。その痕跡から新たな事実が分かっていく過程は、例えるなら「ミステリー小説の謎解き」のような面白さがあるそうです。
文化財に指定されると、その部材は全て歴史資料。柱や床材などあらゆる部材に番号札(タグ)をつけて記録を取り、調書を作成します。また、保存修理においては、解体後も使える部材は再利用するため、一点一点を丁寧に扱います。
奈良県文化財保存事務所玉置神社出張所には、建築技師や大工、調査員や事務方など、現在10人のメンバーが勤めています。
8月某日、修理現場を取材した日の作業は社務所内部の化粧材の取外し。化粧部分に一切の傷がつかないように、ひとつひとつの部材を丁寧に取り外します。また、屋根の上では銅板葺の解体を行っていました。9月に行われる保存修理現場の見学会では、銅板の下にあるこけら板や杉皮、更に屋根の構造がどのようになっているかを間近に見学することができます。

◇調査と修理が育む価値
この社務所及び台所の修理工事の工期は、現在令和12年3月末までを予定しています。解体作業は令和8年度までの予定ですが、解体後は建物の下にあった石垣を積み直すために発掘調査が必要です。耐震診断を行ったところ、大地震で倒壊の恐れがある判定が出ているため、発掘調査の後には、石垣を積み直して基礎工事も必要となります。
今後の調査によっては、修理工事の工期は延びる可能性もあります。それは文化財をより深く理解し、確かな姿で残すための大切な過程です。
さらに、建物を修理して建て直すとは言っても、一筋縄ではいかないこともあります。例えば、社務所の地階にかまどの跡が発見されましたが、いざ修理する時にどのように復元するべきでしょうか。地域で特色がある場合もあるので、類例があれば修理の参考になります。村内で江戸時代のかまどが残っている家や、使っていた記憶など、心当たりがあれば、ぜひお知らせください。

◇文化財を次世代につなぐために
文化財修理の基本は現状修理であるので、解体後の復元では現在の姿に戻すことが基本です。ですが、修理の履歴や建物がどのように変わっていったのか、調査で明らかになった少し昔の江戸時代の姿、文化財としての価値が高い状態に戻す考え方もあるそうです。
例えば、社務所の南側の廊下は後から増築されていることも分かってきました。当初の姿に近づけるため、復元する際には南廊下を撤去することも考えられますが、そうすると建物の使い勝手は悪くなってしまいます。どのような姿に修復するかは、修理工事の発注元であり、今後も社務所及び台所を活用し続ける玉置神社や、文化庁などと相談していくことになります。
保存修理は過去を守る営みであると同時に、未来への橋渡しでもあります。文化財を次世代に引き継ぎ、地域とともに息づく姿を保ち続けることが、私たちの大切な役割です。

▽information
・玉置神社
十津川村大字玉置川1番地
自由参拝
(授与所は8:30~16:00)

・奈良県
文化財課・文化財保存事務所

■重要文化財 玉置神社社務所及び台所 保存修理現場見学会
◇ここに注目!社務所の屋根を間近で見てみよう!
素屋根の足場からは、社務所の屋根面を近くで見ることができます。屋根の銅板の下はどんな構造になっているのかな?

◇ここに注目!絢爛豪華な杉戸 写真パネルで展示!
社務所の絢爛豪華な杉戸や襖絵は、クリーニングや剥落止を行ったり、描かれた当初の姿を調査したりしています。
今回は、パネル展示で絵画を紹介します!どんな動物が描かれているのかな?

令和7年9月26日(金)・27日(土)
事前申込不要・見学無料 10:00~16:00 受付終了15:30
場所:玉置神社境内 社務所及び台所 素屋根内(大字玉置川1番地)

共同主催:玉置神社/奈良県

問合せ:奈良県文化財保存事務所 玉置神社出張所
【電話】0746-64-0020(前日まで)