健康 雲南病院だより

■たかが痔(じ)、されど痔
診療局 外科診療科部長 百留亮治(ひゃくどみりょうじ)

痔は、肛門や直腸周辺に発生する病状の総称で、主に「痔核(じかく)」、「痔瘻(じろう)」、「裂肛(れっこう)」の3つが代表的な疾患です。これらは古くから人類を悩ませてきました。世界的には紀元前1500年ごろの世界最古の医学書とされる「EbersPapyrus(エーベルスパピルス)」に植物の葉を用いた痔核に対する治療法が記載されており、わが国では900年代に記された日本最古の百科事典と言われる「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」内に痔の記載が残されているそうです。それ以来、過去の偉人たちの努力によって病気のメカニズム、治療法、注意すべき生活習慣や食生活などが徐々に明らかになってきました。しかし、現代の世の中でも多くの方々が痔に悩んでいますが、受診に関しての恥ずかしさや専門医の少なさなどで治療できずに一人で悩んでいる方々も多くいることでしょう。

◯1.痔の種類
《痔核》
肛門への血流の増加や流出量の減少のため、また肛門周囲の組織が弛んでしまい、静脈瘤の状態となります。肛門の内側にできるものを「内痔核」、外側にできたものを「外痔核」と言います。一般的に「いぼ痔」は内痔核のことをさすことが多いです。

《痔瘻》
肛門周辺にある「肛門腺」への感染がきっかけで膿がたまり(肛門周囲膿瘍)、皮膚などに慢性的に排出される状態です。俗称では「あな痔」と呼ばれることもあります。

《裂肛》
肛門の皮膚が裂けることで、激しい痛みや出血を引き起こします。「きれ痔」と呼ばれます。

◯2.原因
痔核の発症の原因には、排便時の強いいきみ、慢性便秘症、トイレに長時間座ること、重いものを扱う職業、座りっぱなし、肉食の食生活などが挙げられます。また女性は妊娠・出産時には骨盤内がうっ血しやすく、肛門周囲の血流が悪くなりやすいため痔核も発生しやすい状態にあります。痔瘻には慢性的な下痢が誘因となるといわれています。また、裂肛は便秘による硬い便によって肛門上皮が裂けるとされています。

◯3.症状
痔核では、排便のあとに出血することがあり、痔核が大きくなると外へ脱出してきます。裂肛では出血は少量のことが多いですが、排便時や排便後もしばらく痛いことがあります。痔瘻の初期段階の肛門周囲膿瘍の場合は高熱や激しい肛門部の痛み・むくみが見られ、慢性期では時折膿が少しずつ出ることがあります。

◯4.検査
検査では、主に視触診などを行います。体勢は左を下にし横になり、診察時にはタオルなどを掛けて恥ずかしさの軽減に努めます。診察時には潤滑ゼリーを用いながら人差し指で肛門内を触診し、その後に肛門鏡という筒状の器具を挿入し、内部を観察します。検査時には通常であれば強い痛みはありませんので、リラックスし力まないようにしていただければ、短時間で終わります。

◯5.治療
痔核や裂肛では手術などのほかに軟膏や坐薬などを用いる薬物療法がありますが、生活習慣の改善も大切です。便秘は排便時の強いいきみや排便時間の延長などにつながり、一方下痢も頻回のいきみによって肛門への負担になります。排便は便意を感じてからトイレに行き、座る時間も5分以内で強くいきむことなく行うことが重要です。また寝不足、身体的な疲労、ストレス、長時間座ること、多量の飲酒、香辛料など刺激物の大量摂取、身体の冷え、運動不足などが症状を悪化させるともいわれており、避けた方がよいです。
手術では、結紮切除術(けっさつせつじょじゅつ)などの痔核手術、裂肛根治術、痔瘻根治術などは、半身麻酔で行い、2泊から3泊程度の入院が必要です。または硬化療法としてALTA(アルタ)療法という注射による治療も、すべての痔核で行えるわけではありませんが、術後の疼痛(とうつう)が軽度というメリットがあります。状況によって手術と硬化療法を併用して治療します。
肛門の症状があれば、一度外科外来に相談に来てください。

図:各種の痔疾患
※詳細は広報紙12ページをご覧ください。