くらし 特集 地域で包み込む(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県東温市
- 広報紙名 : 広報とうおん 令和7年7月1日号 vol.249
あなたにとっての「居場所」とは何ですか。自分を受け入れてくれ、安心できる存在であり、挫折や失敗から立ち直ろうとするとき、支えになってくれる存在ではないでしょうか。
犯罪や非行をした人が自分の行いを省み、立ち直りを果たすためには、地域社会の中に「居場所」が必要です。そんな「居場所」を作り、明るい地域社会を支える保護司の二人を取材しました。
■保護司って何をしてる人なの?
犯罪や非行をした人を社会の中で更生させるため、次のような活動をしています。
▽犯罪や非行をした人との面談
更生のための約束事(遵守事項)を守るよう指導するとともに、生活上の助言などを行います。
▽釈放後の受入先の調整
矯正施設から釈放後の住居地の調査や身元引受人との話合い等を行い、受入態勢を整えます。
▽啓発活動
「社会を明るくする運動」など、犯罪を予防するための啓発活動を行います。
皆さんは「保護司」を知っているだろうか。保護司は、犯罪や非行をした人が社会の中で更生できるよう、立ち直りを支援する民間のボランティアだ。
東温市は松山地区保護司会に所属しており、市内には12人の保護司がいる。保護司を務めているのは、現役で仕事をしている人や定年退職した人、主婦などさまざまだ。
■ゼロから始めた保護司としての活動
大森政明(まさあき)さん(写真下)は、現在、松山地区保護司会第8分区の分区長を務めている。「地域で付き合いがあった保護司の方から打診を受け、平成20年に保護司になりました。当時は何をするのか全く知らなかったのですが、『罪を犯した人を社会の中で立ち直らせるという役割を担っていて、地域に必要不可欠な存在だ』というお話を聞き、微力ながら自分も頑張ってみようと思って挑戦することにしました」と振り返る。
保護司の特徴は地域をよく知っているという地域性、無償で活動するボランティア性、地域をより良くしたいという地域愛・隣人愛の精神。大森さんは「罪を犯した人が同じことを繰り返さないためには、自分たち保護司や周りの人たちのバックアップが必要です。地域を支える保護司として、社会を明るくする一助になれればと思って活動しています」と語る。
大西千里(ちさと)さん(写真下)も、市内で保護司を務める一人だ。かつて所属していた婦人会で繋がりがあった知人に勧められ、平成10年に保護司になった。現在は、松山地区更生保護女性会東温支部の支部長を務め、更生保護施設「雄郡寮」への食事の提供など、更生保護女性会の活動も行う。
■「大西さん、僕ちゃんと仕事しよるけんね」
27年間保護司をしてきた大西さん。「昔担当していた子にたまたま会ったとき、『大西さん、僕ちゃんと仕事しよるけん、心配いらんよ』と声を掛けてくれたことがありました。保護観察期間が終わるとその子が今どうしているか分からないので、声を掛けてもらえて嬉しかったですね」と笑顔で振り返る。
しかし、社会の中で更生できるケースもあれば、再び罪を犯してしまうケースも少なくない。保護観察期間が終わった途端に再び罪を犯してしまうショックな経験も。そうした中でも大西さんが保護司を続けてきた背景には、忘れられない言葉があった。
■心に焼きついた殺人犯の言葉
「昔、関東で起きた無差別殺人事件の犯人が『僕には帰るところがなかった』と言っていたのをニュースで聞いたんです。あの言葉を思い出すと、今でも辛い気持ちになります。それから『帰るところを作ってあげないといけない』と思うようになりました」と語る大西さん。
住む場所や働く場所、立ち直りを受け入れてくれる地域など「居場所」を作ることも保護司の重要な責務だ。
そして、地域で暮らす私たちにもできることはある。
■地域を居場所に
保護司は、過去の過ちを悔い、再出発を目指す人々を地域の中で受け入れられるよう日々尽力している。その姿は、「思い込みで人を排除することでは何も解決しない」ということを私たちに教えてくれる。
では、地域で暮らす一員である私たちにできることは何だろうか。まずは、保護司や更生保護女性会などの活動を知り、理解し、立ち直ろうとする人の存在を受け入れることだ。大森さんは「保護司の認知度はとても低いものですし、保護司のなり手も不足しています」と課題を感じている。一人ひとりがその活動を知り、理解することが、明るい社会作りへの第一歩だ。
また、大西さんは「地域での挨拶や声掛けを大切にして欲しいですね」と語る。「こんにちは」「お変わりないですか」、そんな何気ない挨拶や会話がある地域は、誰かにとっての「居場所」になれる。
犯罪や非行のない明るい社会を作るために、今、できることから始めてみよう。
●「社会を明るくする一助になれれば」
大森政明さん(72歳・下林)
松山地区保護司会第8分区の分区長を務める。53歳のころ、保護司をしていた地域の人に勧められたことで保護司になり、今年で18年目。普段は農業をしている。
●「帰るところを作ってあげないといけない」
大西千里さん(76歳・南方西)
松山地区更生保護女性会東温支部の支部長を務める。49歳のころ保護司になり、今年で27年目。趣味はガーデニング。