- 発行日 :
- 自治体名 : 長崎県波佐見町
- 広報紙名 : 広報はさみ 令和7年7月号
◆“咬み合せ”って何ぞや(8)
今回は総入れ歯の咬み合せについて解説します。
総入れ歯の咬み合せは、患者さんの本来の咬み合わせと同じにする必要はなく、歯科医師や歯科技工士が自由に設定できます。つまり、もともと歪んでいた歯並びも、総入れ歯によって整えることが可能です。そうなると、「何でも咬めるようになるのでは?」と考えがちですが、総入れ歯を使っている方はそのように思われていないのが実際のところです。
その理由は、まず自分の歯は動かず固定されているのに対し、総入れ歯は動きやすい点です。また、総入れ歯で力強く咬んでも、自分の歯ほど強く咬むことはできません。なぜなら、総入れ歯は柔らかい歯ぐきに乗せているため、上下左右前後に少なからずずれる傾向があるからです。さらに、咬合平面に沿った歯並びだったとしても、下顎の動きによって上下の総入れ歯には外れるような力が生じます。
これらを防ぐには、適切な咬み合せ調整が不可欠です。総入れ歯をうまく機能させるために特に重要なのは、「両側性平衡咬合」の調整であり、シリーズ(7)で解説したような片側性平衡では不十分です。実際には、「総入れ歯成功の約8~9割は咬合(咬み合せ)」によるものだと理解してください。ただし、歯並びの設定には、顔全体の形状や顎関節・筋肉・骨格、さらに歯を失った理由など個々人固有の条件も影響します。つまり、一卵性双生児の方が総入れ歯を作っても、必ずしも全く同じ形にはならないということです。
結論として良い総入れ歯とは、エビデンスに基づいた正しい咬合理論を土台にしながらも、その人ひとりひとりの顔や口腔状態に合わせて長年経験を積んだ歯科医師・歯科技工士がカスタマイズしたものです。そして、それを定期的な健診で微調整を繰り返しながら長期間使用することで、その人だけの「唯一無二」の総入れ歯へと進化していきます。最終的には、長期間快適に使える環境づくりとトラブル時の正確な診断能力こそが、歯科医師の技術力を示すポイントとなります。
次回は部分入れ歯の咬み合せについてご説明いたします。
大村東彼歯科医師会波佐見班
山辺成志