くらし 【特集】平和の継承-戦争の記憶を紡ぎ、平和の灯を次世代へ-(1)

■平和の継承
それは、戦争の悲惨な記憶と教訓を次の世代に伝え、平和を繋いでいくための役目を受け継ぐことです。ここ沖縄においても、国内で唯一住民を巻き込んだ地上戦が行われ、多くの尊い命が奪われました。私たちは、この事実を戦争体験者から聞くことで平和の尊さを胸に刻んできました。
しかし、戦後80年を迎えるなかで、高齢化により戦争体験者から話を聞く機会も減りつつあり、継承が課題となっています。
市では、戦争体験者の証言を映像に残し発信することで次世代への継承に取り組んでいます。他方、戦争体験者の遺志を継承し、次世代に平和の大切さを伝える人々も増えてきています。
今号では、解説員として活動する戦争体験者と平和活動に取り組む高校生に話を聞き、平和への想い、戦争を知らない世代へ伝えたいことなどを伺いました。彼らの想いを聴き、慰霊の日に改めて平和について考えるきっかけになれば幸いです。

◆沖縄戦体験者 岸本幸秀さん(87歳)
6歳の頃に那覇市若狭町の自宅で10.10空襲に遭う。その翌年、最後の疎開船で大分県へ疎開し、終戦を迎える。現在は、養秀同窓会の一中戦没学徒資料室で解説員として活動。

○語り部になったきっかけ
もともと養秀同窓会の東京支部で活動をしていましたが、沖縄に帰った際に、友人の誘いで同窓会の平和部会に加入したことです。私自身も10.10空襲や疎開を経験していることや、ひめゆり学徒隊であった叔母が語り部活動をしている姿を見て、私も語り部を担おうと思いました。叔母の影響が一番大きかったです。
今回、戦争体験を映像に残そうと思ったのも、幼稚園生の頃に空襲に遭ってからずっと当時の状況が頭の中に残っていて、戦争の恐ろしさを後世に伝えないといけないという思いがあったからです。

○次の世代へ伝えたいこと
平和とはひとえに戦争のないことです。戦争は人の心身、地球上の構造物すべてを壊します。恐怖を植え付けます。世界で起こっている戦争や紛争をテレビで見ると、80年前のことを思い出します。空襲で焼失した那覇の街の姿、焼け焦げた臭いは今でも脳裏に焼き付いています。戦争で得るものは何も無く、平和に勝るものはありません。
戦争が起こる原因は、主に領土、政治、資源、民族、宗教などと言われ、ちょっとしたコミュニケーションのもつれから大問題に発展していきます。お互いの交流を深めることで戦争とは異なる解決もあります。次の世代の人たちには、隣国との交流を深化できるような国際色豊かな人になって欲しいと思います。
また、沖縄戦の資料館にも足を運び、先人たちが遺した大切な遺品、写真などの展示物を見て、当時の状況を回想しながら戦争の怖さを深く知ってほしいです。そして、若い人には、語り部に参加して戦争の悲惨さ、平和の尊さを発信し続けてほしいと願っています。

岸本さんや他の戦争体験者の「命どう宝」の思いと平和の尊さ、平和を希求する思いを次の世代へ伝えるメッセージが収録されていますので、ぜひご覧ください。
※詳しくは本紙をご確認ください。

◆沖縄尚学高等学校 地域研究部 太田 尋也さん(16歳)
幼いころ資料館や防空壕を見学し戦争・平和に心づく。同部で活動していた兄、・姉の姿を見て入部を決意し、語り部としての活動を始める。

○語り部を担うにあたって、意識していること
私たちは戦争を直接経験していない世代です。原稿をただ淡々と読み上げたり、事実だけを伝えたりすることは簡単ですが、それだけでは実際に戦争を体験した方々の言葉のような重みがなく、聞き手の心には届きにくいと感じています。また、語る言葉が本当に適切なのか、自信が持てないこともあります。だからこそ、歴史的な事実や背景をきちんと調べ、証言者の方々の言葉から沖縄戦について学び、自分自身の考えを持った上で語ることが大切だと思っています。今後は、そうした姿勢をしっかりと実践していきたいです。
現在は主に、部活動の後輩や交流のある県外の高校生に向けてフィールドワークを行っていますが、今後は身近な友達や県内の他の高校生や中学生など、語り部の活動をより多くの人々に届け、平和の大切さを共有していければと思っています。

○戦争を知らない世代へ伝えたいこと
日本では、戦争に直接関わることが少ないせいか、戦争について考える機会があまり多くないと感じます。しかし、関わりが少ないからといって、戦争について「考えなくてもいい」わけではないはずです。ほんの少しでもいいので、戦争とは何か、平和とは何かを一緒に考えてほしいです。
最近では、ウクライナでの戦争や、ガザ地区での紛争など、世界のさまざまな場所で戦争が起きていて、それらがニュースで頻繁に報道されています。数年前に比べて、戦争について知る機会は増えてきていると感じます。戦争のニュースをきっかけに「もし自分が戦争に巻き込まれたら」と自分ごととして考えてほしいです。また、私たちの身近で大切な家族や友人の存在や安全な暮らしについて、もっと身近なところから平和についても考えてもらえたら嬉しいです。そして少しずつでも、自分の意見を持ってくれるようになることを願っています。