くらし 医療と介護の魅力発信 Vol.3(2)

◆「その人の人生にそっと寄り添う」
在宅医療の現場からみえる人生会議のかたち
~阿部医師×片岡看護師 対談~
今回は、訪問診療に携わる阿部医師と、訪問看護師として日々のケアに向き合う片岡看護師に、「人生会議(ACP)」の実際や、在宅医療の中で大切にしていることについてお話をしていただきました。

○大切にしているのは「押しつけない」「急がない」
―在宅医療を行う中で、大切にしていることは何ですか?
阿部医師…病院は、患者さんが治療のために通ってくる場所。でも、在宅は違います。私たちがその人の「生活の場」にお邪魔する形です。だから、「押し付けないこと」と「急がないこと」、この二つを特に大切にしています。
片岡看護師…訪問看護では、命が尽きるその瞬間まで関わることもあります。今日会えても、次はもう会えないかもしれない。だからこそ、出会いの一つ一つを大事にしながら、今、その人のためにできることを精一杯やるように心がけています。
阿部医師…治療方針も「これをしなければいけません」と一方的に決めるのではなく、本人や家族と話し合って、一緒に考えていきます。在宅医療では「ナラティブ」、つまりその人の人生の物語を尊重する視点がとても大事なんです。

○「人生会議」は特別な場ではない。日常にあるもの
阿部医師…在宅では、ご本人やご家族の気持ちが日々揺れ動く中で、毎日のように小さな意思決定が行われていきます。それがまさに「人生会議」なんです。あるご夫婦のケースでは、介護されていたご主人が、認知機能の低下もあって意思決定が難しくなっていて、そんな中でも、多職種で連携して、何度も話し合いを重ねて「どうしたらご本人の思いに寄り添えるか」を探っていきました。
片岡看護師…私は、相手に「どう思ってる?」と語ってもらうような関わり方を意識しています。少しずつ考えるきっかけになるように。
阿部医師…ACPって、何かを一度きりで「決めること」ではなくて、「プロセスを重ねていくこと」なんですよね。

○「一人で最期を迎えたい」その願いをどう支えるか。
―「最期まで自宅で過ごしたい」という願いを持つ独居の人もいますよね?
阿部医師…忘れられないのは、50代でALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された独り暮らしの男性。民間アパートで訪問診療や看護、ヘルパーの支援を受けながら、「ここが自分の家。最期までここで暮らしたい」と話されていました。実際、亡くなられたときは1人でしたが、ご本人の希望どおりの最期だったと思います。
片岡看護師…訪問に行って、チャイムを鳴らしても出てこないときの緊張感はありましたね。でも、そういう覚悟をもって支えていました。周囲がしっかり連携できていれば、慌てずに対応できますし、ご本人が望む形に近づけられると思っています。

○人生会議の始め方
阿部医師…「親から切り出すのは難しい」とよく言われますが、子どもからもなかなか言い出せないですよね。きっかけになるのは、やっぱり身近な出来事です。
―「この前のお葬式で本人が好きだった音楽が流れてたんだって」と話題にして、「お父さんだったらどう?」と聞いてみる。そうやって自然に話を広げていけるといいですね。
「みらいへつなぐノート」を食卓の上にさりげなく置いておくのも、話をするきっかけになるかもしれません。「これ何?」って家族に聞かれたら、「こういうときに、どうしてほしいか書いておけるノートなんだって」と伝える。そうすると、会話が始まるきっかけになりますよね。
片岡看護師…改まらないことが大事ですね。テレビを見ながらでも、ふとしたタイミングで「こうしてくれたらうれしいな」と伝え合えるのが理想です。

○「人生会議」は〔残された人〕の助けにも
阿部医師…「みらいへつなぐノート」は、自分の希望を書いておくことで、残された家族が「これで良かったんだ」と思える助けにもなります。実際に、ご本人が「延命治療は望まない」と伝えていたおかげで、家族が迷わずに最期のケアを選択できたという例もあります。
片岡看護師…本人が満足して旅立てるのはもちろんですが、残された家族も「ちゃんと希望をかなえられた」と思えることが、大きな安心になると思います。

○はじめよう、あなたらしい「人生会議」
人生会議は一度だけのものではありません。何度でも、気持ちが変わっても大丈夫。ちょっとした会話からでも始めてみませんか。
大切な人と、あなたらしい「人生会議」を行うきっかけになりますように。

問合先:保健センター内高齢者福祉課
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