くらし [特集]ジオパークのまちで考える、学びと交流のかたち(1)

今年度、とかち鹿追ジオパークは日本ジオパーク再認定審査を迎えます。審査は、これまでの活動を振り返り、新たな活動を見据える機会でもあります。ジオパークの活動で大切にしてきたのは、地域の自然や文化、人々の暮らしと学びをつなげること。
今回は教育やツーリズムなどさまざまな分野で活動してきたお二人を迎え、ジオパークのスタッフと語り合いました。

正保 縁(しょうほ ゆかり)さん
一般社団法人En 代表理事
トマルカフェ鹿追運営

金森 晶作(かなもり しょうさく)さん
鹿追町役場ジオパーク推進課勤務
環境科学専門員

シンボ グレンさん
鹿追町教育委員会 学校教育課勤務
国際バカロレア コーディネーター

◆鹿追町との出会い
(金森)今回は、同年代で、鹿追に移住してきたという共通点を持つ3人での鼎談(ていだん)です。まず、自己紹介を兼ねて、鹿追に来た経緯を教えてください。

(シンボ)私は米国シアトルの出身です。父が日系二世、母が福島の出身です。日本語は高校生のときに学びました。日本語の先生が日系人の素敵な方で、そのお子さんたちともアメリカンフットボールのチームメートで、親しくなりました。米国で働くつもりでいたのですが、日本の言語や文化に親しんだことから、一度日本で働いてみようと、大学卒業後に英会話教室の先生として帯広にきました。そしてなぜか、そのまま十勝に居着くことになりました。今は、鹿追町の国際バカロレア(以下、IB)教育を進めるコーディネーターをしています。鹿追には2年前に来ました。カナダ・ストニィプレイン町との交流事業や、英語教育に力を注いでいて、ALT(外国語指導助手)の先生を大事にする町の姿勢に魅力を感じています。

(正保)私は香川県出身ですが、学生時代を網走で過ごしました。卒業後、故郷で就職したのですが、北海道の中でも十勝の風景への憧れがあり、2011年に農業研修生として鹿追に来ました。その後、地域おこし協力隊を経て、今は宿泊交流施設「トマルカフェ鹿追」や、ワーケーション事業「シカソン」の運営などをしています。

(金森)私は北海道札幌市の出身です。南極観測隊の参加を経て、2020年にジオパークの専門員として鹿追に赴任しました。専門は雪氷学で、鹿追に来たのは凍れ(しばれ)つながりです。南極に行く前は、函館で、地域ぐるみの科学フェスティバルの運営に携わっていました。科学と地域をつなぐ仕事と、今のジオパークの仕事は地続きだと感じています。

◆学びがつながる ジオパークと国際バカロレア
(金森)シンボさん、IB教育の特徴を教えていただけますか?

(シンボ)鹿追で導入を進めているのは、IB教育のうち、11歳から16歳を対象とした中等教育プログラムです。中学校全2校での導入を進めています。学んでいることがどう生活や社会とつながるのかを大事にしていることが特徴の一つです。なぜこれを学ぶのか、どこで役立つのかを明確にします。また、教科の枠を越えて学びます。数学で学ぶことが、理科とも関係することもありますよね。各教科で学ぶことが互いに関係して、そして社会ともつながります。

(金森)その特徴はジオパークにも通じますね。ジオパークは貴重な地形や地質など、大地の変動でつくりあげられた素晴らしいものがあることが大前提ですが、それが、生態系や地域の文化などとどのようにつながるのかを大事にします。例えば火山がせき止めて然別湖が誕生し、閉じ込められた魚・オショロコマが新たな環境に適応してミヤベイワナとなりました。毎冬のしかりべつ湖コタンも火山の賜物と言えます。ジオパークは、そのような物語のある自然遺産・文化遺産を守りながら活用する地域づくりのプログラムとして発展してきました。私は、雪氷学を専門とする、やや異色なジオパークの専門員です。全国のジオパークでは、地質学や火山学、自然地理学を専門とする方が多いです。北海道のような寒冷地では、雪や氷も大地の変動に強く関わります。いろんな学問が関係してくるところも、教科の区切りを超えていくIBと似ていると思います。

(シンボ)鹿追中学校、瓜幕中学校の2校は2年前にIB候補校となり、今年度の認定を目指しています。教員、生徒が協力し、保護者の理解も得ながら新しい方法での学びに挑戦しています。ジオパーク活動は中学校の教育にも関わっていますね。

(金森)はい。鹿追焼の陶芸体験に合わせて粘土の地層を観察に行ったり、理科で、気候変動の出前授業をしたりしています。人類は地球全体の環境に影響を及ぼすようになり、南極でも鹿追でも変化が起こっています。どんな出前授業とするのがよいのか模索していて、自分の知識や考えを話過ぎて生徒の主体性を妨げないよう、毎年、改善しています。

(シンボ)金森さんは、生徒が取り組む内容だけではなく、ご自身の授業の作り方にもIBで重視する「探究・行動・振り返り」のプロセスを取り入れているのですね。IBでは、生涯にわたって学ぶ力を引き出すために、学ぶ人としての在り方(学習者像)や、学び方(ATLスキルと呼ばれます)を身に着けることを重視します。その根幹にあるのが「探究・行動・振り返り」の経験を繰り返すことです。

(金森)中学生の取組には目を見張ることがあります。例えば、地域課題をテーマに探究しようとするとき、中高生年代の子どもたちは、近所にファストフードのチェーン店がないとか、個人の欲求を地域の課題と考えがちです。それは地域の構造的な課題とは違って、生徒自らが解決できる課題でもありません。しかしながら、私が聞いた発表では、地域のさまざまな取組を取材して課題意識を深め、中学生が自ら取り組めることの提案がいくつもありました。

(シンボ)IBでは、生徒が自分の関心を地域社会とつなげるプロジェクトを行っています。昨年度の取組では、町の娯楽のことを発端に、ニーズ調査や実際の交渉などもして、映画上映会をプロデュースした生徒もいます。今後、ジオパーク活動との連携も期待できそうですね。