- 発行日 :
- 自治体名 : 宮城県七ヶ浜町
- 広報紙名 : 広報しちがはま 令和7年3月号
■復興ピアノで伝承活動
櫻井 由美(さくらい ゆみ)さん
(菖蒲田浜出身、塩竈市在住) ピアノ講師
3.11後、いろいろな偶然が重なって今があるんです。私の実家は、菖蒲田漁港のすぐ前にあり、家は津波で流されました。
あの時、ピアノがある2階だけがポツンと残ったんです。16歳の時から愛用していたピアノでしたが、海水に浸かったため、泣く泣く家と一緒に壊していただくことにしました。
ところが重機を使う人が忍びないと思ったのか、ピアノだけをそっと置いていってくださったんです。そこに、たまたま七ヶ浜の支援に来ていたシンガー・ソングライターのMetis(メティス)さんが助けたいと言ってくれたのが始まりでした。
Metisさんは、その後、修復先を探しますが、ことごとく断られ続け、見つかったのは140件目でした。修復の際には、音色に関係しないところはそのままにとお願いしましたので、今も欠けた鍵盤や塗装が剥がれたところ、屋根(上ぶた)には重機で取り出した時の生々しい爪あとが残っています。
半年後の2011年秋に修復から戻ったピアノを見た私の元生徒さんが、「ほんとうに傷だらけだね。傷だらけのローラ(西城秀樹の歌)だね」と言ったことから、ローラと名づけられました。
◇十字架のような感覚
皆さんへの恩返しはまず、ローラの音色を聴いてもらうことでした。その音色で歌ったり、踊ったり、楽しんでほしいとの思いから、Metisさんとローラちゃん音楽祭を企画しました。生涯学習センターにあった時には、コーラスの練習にも使っていただきました。
このピアノで収録したMetisさんの曲は、日本有線大賞有線問合せ賞になり、その後は、神戸市長田区ライブを始め、横浜でのコンサート、防災国体でのストリートピアノ、ピアニストの清塚信也さんやハラミちゃんにも演奏していただきました。2021年からは、毎年3月に仙台空港ピアノとして皆さんに弾いていただいています。
このピアノは、いろいろなご縁を引き寄せてくれます。知り合うとその人が次につないでくれる。スピリチュアルな話ですが、ローラに意志があるのではと思ってしまうほどです。
でも、私の中では、このピアノが「ローラ」になってからラッキーと思う反面、ちょっとオーバーな言い方かもしれませんが、十字架のような感覚。ローラの背負った運命を共有し、バトンを継ぐのは私しかいないのですから。
これからも、ローラにしかできない音色での伝承活動をしていきたいと思っています。まず七ヶ浜のために役立てたいというのが一番ですね。
七ヶ浜には震災の爪あとを実際に見たり、聞いたりできる伝承館はありません。今後、ローラハウスが「音色の震災伝承館」になれたらうれしいですね。ローラの物語を絵本にもしたいな。震災を知らない世代の子どもたちに、このピアノをきっかけに防災の大切さを知ってもらえたらとも思います。
奇跡の一本松みたいに、七ヶ浜を訪れるきっかけになる「奏でる震災遺構」として遺していきたいですね。
いろいろ大変なこともあるけれど、ローラに音色がある限り続けていかなければと思っています。
左:「この言葉がまさに空港にピアノを持っていく理由です。これを見た時、鳥肌が立ちました」。
右:令和6年4月から6年生の音楽の教科書に復興ピアノが掲載されています。
※詳しくは広報紙P.6をご覧ください。
●ローラに会いたい、弾いてみたいという方は、櫻井さんにご連絡ください。
【電話】080-6002-5005