くらし 町長コラム ベア・パル

■衰退途上国
哲学者の内田樹(うちだたつる)氏と里山資本主義者藻谷浩介(もたにこうすけ)氏が地方創生の阻害要因を話していました。曰く「破局を待望している人たちがいる。それは地元の人たち、特に商売をしている二代目、三代目などで、活性化の足を引っ張る」なぜかというと「自分のやりたいと思っていた職業と違うのを世襲という事だけで選ばざるを得ず、他の土地からよそ者が地方創生で入ってこられると、そもそもやりたくないと思っていた商売を続けざるを得ないから」(日本戦後史論)
全くもって人間の心理は奥深い。良かれと思って取り組んでいる事が他の者にとって迷惑千万な事が多々あります。その衝突のバランスをどのように取っていくのかが行政の妙味と言えるのでしょう。
ところで被災地の2025年度は「第二期復興・創生期間」の最終年度です。建前上「復旧」から立ち上がり、14年前、盛んに喧伝された「創造的復興」の創造の部分をそれぞれの被災地が完成させなければならない時期です。従前から被災を受けた地域は少子高齢化、産業の空洞化、過疎化などの社会課題があり、震災によって、残念ながら加速化されてしまいました。各自治体は、にぎわいや活性化、若者や女性を惹きつける街の魅力をどのように町作りに反映させていくのか、どの被災地もトライアンドエラーで試みてきました。
今一度確認ですが、利府町も震災はとても苦労しました。そこから復旧期を経て、現在、上記の社会課題を解決し、被災地を「創造的」に復興させるために汗を流している最中です。震災前と災後の利府がどう変わったのか、1つの判断基準かもしれません。我々は野心的な目標である人口増を目指していますが、狙いどおりに進んでいる点もあれば厳しい面もあります。特に少子化は顕著です。子ども会などをはじめ、今まで諸先輩方が四苦八苦して維持、存続させてきた団体や会の解散が相次いでいます。先人が努力し、心血や情熱を注いで維持、存続させてきた諸行事、文化、集団、組織、集まりを後世に繋いでいくための処方箋はそう多くありません。持続可能なものにするには、仲間を増やす以外に方法はないと考えています。
日本は今、世界から「衰退途上国」と認識されつつあります。冒頭で示したように多くの日本人が無意識に、あるいは言語化できずに日本丸という「泥船」に乗船し、沈みゆく船の「心地よさ」に心を奪われています。
令和7年度は復興・創生期の最終年度。私たちは船体にマストをたてて頑張らなければなりません。

利府町長 熊谷 大(ゆたか)