その他 新市民会館を解剖する 創造性とにぎわいを育むBIG-TREE(1)

1本の大樹の周りには、多種多様な生物が集まり、連鎖し合って一つの生態系をつくり上げる。そのようなイメージの新市民会館のコンセプトは「BIG‐TREE」。
生態系のように市民の文化活動が集まり、創造とにぎわいが育まれていく。そのコンセプトを基にどのように建物がつくられていく想定なのか、一つずつご紹介します。

▽文化芸術が盛んな山形市
山形市には、映画や音楽のほか、演劇、美術、華道、茶道、伝統芸能など、先人から受け継がれてきた多彩で豊かな文化芸術が根付いています。
2年に1度開催される「山形国際ドキュメンタリー映画祭」は、米国アカデミー賞公認の映画祭になるほど世界的に高い評価を得ています。山形交響楽団は52年もの長きにわたり活動している、東北で最も歴史のあるオーケストラです。そうした山形市に根付いている映画をはじめとした多彩な文化芸術がユネスコに認められ、ユネスコ創造都市ネットワークの映画分野において加盟が認定されました。
さらに、50周年を迎えた児童劇団や設立40周年を迎え、140を超える団体が加入している市芸術文化協会などが活動しています。それらの団体が長年にわたり活動できているのは、拠点となる市民会館が活動を支えているからです。全国の同規模の文化施設と比較して利用率が高い市民会館は、年間で10万人以上が利用し、ホールの稼働率は65%を超えています。このことからも、山形市の文化活動が盛んであることが分かります。

▽分け隔てなく誰もが利用できる場所に
誰もが利用できる場所にするため、バリアフリー対応にも十分に配慮します。各階にはエレベーターで行くことができ、大ホールには車いす席や、小さなお子さんと一緒でも気兼ねなく鑑賞できるように個室の設置も計画しています。また、楽屋から舞台への動線の段差をなくし、車いすの方でも舞台に上がれるようにしています。
今後もワークショップを開催するなど、多様な立場の方から意見を聞く機会を設けて、誰もが快適に過ごせる場所にしていきます。

▽山形市の気候への対応
冬季の積雪や凍結への配慮が必要な山形市。屋根の勾配を施設の内側に向けることで、雪やつららの落下を防ぎます。施設上部に設置する樹木は、葉に積もった雪が落下しないよう、冬には葉が落ちる低木の落葉樹を採用します。また、施設の通行空間の多くはガラスで囲われている内部空間であり、風雪にさらされることはありません。
選定された事業者グループには、山形の気候を熟知した市内企業が数多く含まれており、冬季の積雪などに配慮した施設設計や運営を行います。

▽まちにみどりをもたらす存在へ
市が行ったアンケートでは、中心市街地にみどりが少ないと回答した割合が約60%。中心市街地にみどりが少ないことが課題となっています。
まちなかのみどりは、居心地が良い空間となり、日常的に人が滞在する居場所となります。魅力的なみどりの空間は人々を引きつけ、にぎわいをもたらします。
文翔館などの周辺のみどりとも調和を図り、新市民会館が市民の居場所に、市外の方にとって訪れたくなる観光スポットになることで、山形市の豊富な文化芸術との偶発的な出会いを生み出していきます。

新市民会館を設計した平田晃久(ひらたあきひさ)さんが、設計の意図や思い描いている使われ方などを説明している動画をYouTubeで公開中です。1階から屋上にかけて館内ツアーのような説明で、新市民会館をイメージしやすい動画になっています。ぜひご覧ください。