くらし なめがた大使小林光恵さん書きおろしエッセイ 五感でキャッチ!なめがた漫遊記 第10回

■春は水たまり
三月のように暖かく晴れた一月下旬の昼下がり。霞ヶ浦大橋から見える湖面のあちこちが銀色に輝いていた。穏やかだけれど存分な感じに。いいあんばいの陽ざしを浴びて気持ちいいのかも、と思ってしまうほどきらきらきらと。
それで、今年はあのときみたいな水たまりに出会えるかも、と期待が高まった私である。
高校の何年生かのある日のことだった。たぶん春休み中。外の乾燥した空気がほこりっぽかったのは昨日までのこと。夜中から未明まで降った雨のおかげで、外は深呼吸をしたくなるようなおいしい空気で満ちている。晴れてぽかぽか陽気の下を歩き出すと、地面にできた水たまりらに出会う。大きさや形はさまざまだが、洗面器くらいのが多い。立ち止まりそれらを見ていると、陽ざしのさし方の変化によって水面が急に輝きだす。派手な化学反応でも起こすのでは?と思うほどやたらきらきらと。見続けていると、それら水たまりが順に鳥の翼に変化して、軽やかに飛び立っていくイメージが頭に浮かんだ。片翼でもみんな平気に飛んで行った。そんな光景をどこかで読んだか、聞いたか、その影響だと思われる。
以来、「春はあけぼの」もいいけど、私は「春は水たまり」かな、と思うようになった。
しかし、その後、アスファルトやコンクリートで覆われた場所が多くなったからだろうか、いや、私自身が、水たまりのことをとんと忘れていたような気もするが、思えば近年、あのときのような水たまりに出会っていない。
とにかく、今年は、春の、雨後の晴天の日に行方のどちらかを散歩してみたい。親玉級の水たまりとも言える霞ケ浦の湖面があんなにきらきらしていたのは出会う予兆かもしれないから。さて、どこを歩こうか。

■小林光恵さん
行方市出身。つくば市二の宮在住。
水がたまったままでは蚊の発生の心配がありますから、天日によって蒸発してしまうタイプの水たまりがいいですね。
市公式ホームページ内で「行方帰省メシ」連載中。