文化 歴史資料館 連載四〇二

■古峰ヶ原の天狗
むかし、佐久間の人たちが、火伏(ひふ)せで知られる古峰ヶ原(こぶがはら)の古峰神社(ふるみねじんじゃ)(栃木県)にお参りした時のこと。カヤぶきの大屋根が風雨にさらされ、ところどころ腐っています。
「こんじゃあ雨がもる。おれらで修理してもいいけんが、カヤがねえからな」「おら方にはカヤがいっぺえあまってたのに」などと話しながら、その夜は宿坊(しゅくぼう)に寝ましたが、なぜか一晩中、庭のあたりでガヤガヤと大勢の人声がしていました。翌朝起きてみると、庭にはたくさんのカヤのたばが積まれています。すると神主さんが来て、
「まことにすまないが、屋根を直してくださらんか。カヤはお前さんたちの村から持ってきましたので」と言います。古峰ヶ原には天狗(てんぐ)がいるとは聞いていたが、さては天狗のしわざかと驚きながら、さっそく屋根の修理に取りかかりました。
さて、その夜は、精進料理(しょうじんりょうり)のごちそうが出ましたが、その中の豆腐(とうふ)を一口食べてみて、皆すぐに箸(はし)を置き、
「おらが村の伊三郎(いさぶろう)のとこの豆腐の方が、もっとうまいんだが」と、村の豆腐の自慢をしました。すると、次の晩から、おいしい豆腐が出されました。村人たちは驚(おどろい)いて、
「この豆腐は伊三郎どんの豆腐と同じだ」と言うと、神主さんは、
「わかりますか。これは伊三郎さんのところから買ってきたのです。このなべは伊三郎さんから借りたのですが、これはあなた方から返してください」と言い、黒いなべを見せました。
佐久間の人たちが帰ってきて、伊三郎に話を聞くと、
「見なれない人が豆腐を買いに来たけど、売りましたよ」と答えたと言います。