- 発行日 :
- 自治体名 : 東京都足立区
- 広報紙名 : あだち広報 2025年10月10日号
■千住の遺産
時代を超えて今に受け継がれてきた、千住の歴史をあらわす象徴的な資料・作品をご覧いただけます。
◆[初公開] 千手観音立像 御前立(せんじゅかんのんりゅうぞうおまえだち)
勝專寺(千住2丁目11番)に秘仏としてまつられている千手観音立像は、鎌倉時代後期、隅田川から引き上げられたといわれており、この千手観音が「千住」という地名の由来になったという説があります。
今回の展示では、秘仏である千手観音立像のお身代(みが)わりとして参拝するための像「御前立」を展示します。御前立は、秘仏を模して造られた像でありながら、秘仏の分身として、同等の仏像とされています。
※秘仏の千手観音立像は非公開。パネルで展示
・彫刻家・東京藝術大学名誉教授 籔内佐斗司(やぶうちさとし)氏作。高さ約74センチメートル
◆[初公開(甲冑師による修復後)] 黒漆塗仏二枚胴具足(くろうるしぬりほとけにまいどうぐそく)
現在の千住旭町にある旧家に伝わった甲冑(かっちゅう)。火縄銃の登場で変化した戦に対応した甲冑で、動きやすく防御力が高いのが特徴です。兜(かぶと)は、早乙女家親(さおとめいえちか)(戦国時代から江戸時代初期、現在の茨城県にあたる常陸国(ひたちのくに)の兜鍛冶)が作ったといわれていますが、それ以外の部分の作者は明らかとなっていません。千住宿の旦那衆(有力な商家の主人)の武士志向を示す重要な資料で、「二重身分」を象徴する甲冑です。
・座った状態で高さ約1.28メートル
▽二重身分とは?
「町人」でありながら、名字帯刀が許され、取り締まりの役割を担う「武士」の身分も併せ持つ人のこと。千住宿にこのような身分の人がいたことが、ここ10年ほどの研究で明らかになりました。
◆報知新聞(ほうちしんぶん) 奥羽御巡幸図会(おううごじゅんこうずえ) 千住駅(せんじゅえき) 御小休之景(ごしょうきゅうのけい)
明治天皇の皇后に、千住の子女が菖蒲を献上する様子を描いた浮世絵(場所は現在の千住3丁目76番)。明治9(1876)年に、明治天皇が東北地方を巡る際に、皇后が千住まで見送りに訪れていました。明治時代においても千住が交通の要所であったことを伝える重要な資料です。
・明治9年(1876年)三代歌川広重(うたがわひろしげ)作
■花開いた文化
千住宿は、江戸の文人(ぶんじん)たちが多く訪れたことにより、書画や俳諧などを嗜(たしな)む文化が発展しました。ここでは江戸時代後期から昭和時代に制作された作品をご覧いただけます。
◆豆名月図(まめめいげつず)
千住の琳派(りんぱ)絵師・村越其栄(むらこしきえい)の師であり、千住・足立の文人らとも交流のあった鈴木其一(すずききいつ)による作品。月夜に浮かび上がるマメ科の植物が描かれています。
「豆名月」とは、十五夜(じゅうごや)の次に月が美しいといわれる十三夜(じゅうさんや)の別名です。旧暦9月13日(現在の10月下旬から11月上旬)の夜、その時期に収穫された豆を供えて月見をしたことから「豆名月」と呼ばれました。
・江戸時代後期 鈴木其一作
◆王羲之図(おうぎしず)・隷書李白五言律詩(れいしょりはくごごんりっし)
明治時代から戦前を代表する書家兼画家の中村不折(なかむらふせつ)による作品。4世紀、中国で活躍した書家・王羲之(おうぎし)が、自身が気に入った鵞鳥(がちょう)と交換するために書を記したという逸話を描いています(王羲之図)。この逸話を題とした8世紀の詩人・李白(りはく)の漢詩を不折が隷書(れいしょ)(書体)で書いたものが隷書李白五言律詩で、これらは一対の作品です。
千住河原町の青物問屋に伝来した作品で、同家の9代目当主(明治19〈1886〉年から昭和19〈1944〉年)は不折のもとで書法を学んでいました。千住の旦那衆が近代以降も著名な芸術家と交流し、書画芸術を嗜む文化を持ち続けていたことを物語る一作です。
・明治時代から昭和時代前期 中村不折作
◆稲荷像図画賛(いなりぞうずがさん)
戦前から戦後にかけて千住で活躍した俳人・岡本機柳(おかもときりゅう)が書いた色紙。「醒(さ)め易(やす)き酒(さけ)をうりけり梅(うめ)の茶屋(ちゃや)」という句が、狐(きつね)の置物の絵とともに書かれています。
・昭和49年(1974年)岡本機柳作
▽謎多き岡本機柳
岡本機柳は千住五丁目を拠点に活動していた俳人です。未解明の部分が多いですが、ご親族から多くの作品・資料を調査する機会をいただいたことにより、ごく近年まで千住で活動していたことがわかりました。今後、郷土博物館では、千住の俳諧文化(江戸時代から昭和時代中期)の歴史をひもとくキーマンとなる可能性を秘めた岡本機柳について、調査・研究を進めていきます。
問い合わせ先:郷土博物館
【電話】03-3620-9393
