文化 人形遣いが紡(つむ)ぐ伝統(2)

◆伝統を記録する
昭和女子大学歴史文化学科
教授 大谷津早苗さん
人形芝居のような無形文化財は、人から人へ伝えていくため時代と共に変化していきます。だからこそ、記録や映像をとり、調査記録(報告書)を残すことが必要です。総合調査する5座のうち3座は国指定重要無形民俗文化財で、2座は県指定。しかし、調査では国・県指定に関係なく、歴史的な経緯や現在の活動状況を一様に明らかにし、記録していきます。5座の皆さんには調査の成果報告書を、本来の形を確認し回帰するためのよりどころとして役立ててほしいと思います。前鳥座の皆さんには、祭礼での奉納上演の伝統や歴史を大切にしながら、一方でこれまで以上に女性・若者、地域以外の人にも加わってもらい、楽しく盛んに活動していただきたいです。

◇情報・資料の提供にご協力ください
昔の前鳥座の話を伺える方や、相模人形や道具類・義太夫節の床本をお持ちの方は、市社会教育課まで。ぜひ情報をお寄せください。

◆(高浜高校文楽部  湘南座)人形と一心同体で
市内で一人遣いの人形浄瑠璃を継承するのは2団体。高浜高校(高浜台8-1)の文楽部と、その卒業生が多く所属する湘南座だ。高浜高校文楽部は昭和47年に始まり、休部期間も乗り越えながら、今も続いている。現在は湘南座の指導の下、週1回の稽古に励み、民俗芸能まつりや公民館まつり、学校の行事などで舞台を披露している。

◇部活で初めて触れた伝統芸能
2年生の山崎穂果(やまさきほのか)さんは、「元々、日本文化に触れることに興味がありました。入学した頃の部活紹介で初めて見た人形浄瑠璃を『すごい!』と思い入部しました」と話す。現在の部員は3年生1人・2年生2人で、新入部員の勧誘には苦労しているそう。ただこの状況は2年生が入部した当時からだった。同じく2年生の齋藤流希(さいとうるき)きさんは「このままだと休部だと聞いて、伝統芸能に触れられる珍しい部活がなくなったらもったいないと思いました」と振り返る。「人形を操るのは初めてで難しかったけれど、ここでしかできない貴重な経験ができて、入って良かったと感じています」と続ける。

◇先輩から受け継ぐ技術と思い
「2人とも本当に熱心に取り組んでいます」と話す、湘南座の城田雅江さん。基本の技術が身に付いてきた2人には、人形と連動する動きをより美しく見せるための指導を中心にしているそうだ。「私自身、学生時代に文楽部での経験があったので、現在も細く長く続けられています。卒業後もこうして文楽部で一人遣いを継承してくれている後輩がいるのはうれしいことですし、湘南座としても心強いです」と続けた。

○一人遣い
1人で1体の人形を操る操法。人形と人形遣いの顔を耳紐ひもで結び、人形の足と胴を足木や胴金などで人形遣いの体に密着させて操る。
※詳細は本紙をご覧ください。

◆(前鳥座・令和7年度の演目)『鎌倉三代記 三浦別れの段』
大坂(おおさか)夏の陣の豊臣家滅亡を、鎌倉時代に置き換えた作品。主人公・三浦之助が、母・長門の病を案じ、負傷しながらも戦場から帰館する。そこで迎えたのは敵方の娘・時姫。美しい振り袖姿の姫で長門の看病をしていた。時姫は三浦之助にすがりつくが、「敵方の娘は信用できない」と受け入れてもらえない。そんな2人の駆け引きと切ない恋を描いた物語。三浦之助を慕い時姫が嘆く場面は、悲劇的で胸を打たれる。

○三人遣い
3人で1体の人形を操る操法。人形の首(かしら)と呼ばれる頭部と右手を操る主遣(おもづか)い、差し金と言われる長い棒で左手を操る左遣い、人形の両足にある足金などを操る足遣いに分かれる。享保(きょうほう)19(1734)年に、人形をより人間の動きに近づけるために考えられたとされる。
※詳細は本紙をご覧ください。

◆ひらつか民俗芸能まつり
日時:11/16(日)午後1時〜4時ごろ(0時30分開場)
場所:中央公民館(追分1-20)
古くから受け継がれてきた市内の郷土芸能を楽しみませんか。前鳥座・湘南座・高浜高校の人形浄瑠璃の他、囃子太鼓や甚句の舞台が見られます。

各団体の出演時間など、詳しくは10月中旬に市ウェブなどで公開します。

問い合わせ:社会教育課
【電話】35-8124

◆9/27(土)・28(日)江戸時代から続く奉納演芸
前鳥神社例大祭で前鳥座の舞台を楽しみませんか。27日の宵宮(よいみや)では午後7時からの「麦振舞(むぎふるまい)神事」(市指定重要文化財)の後、前鳥座の公演があります。演目は『鎌倉三代記 三浦別れの段』(約30分)です。28日の本宮の演目は『三番叟(さんばそう)』(約5分)です。
前鳥座の舞台は27日は午後8時ごろ、28日は6時ごろ。前鳥神社(四之宮4-14-26)。

◇稽古の見学や学校での体験学習
前鳥座の稽古を見学できます。稽古は四之宮公民館で月2・3回。見学希望の方は開催日をお問い合わせください。また、前鳥座では市内の小・中学校、高校での体験学習や公演も積極的にしています。
7月の稽古では公民館に訪れていた小学生の「見たい!」という声に、鈴木さんが快く応えていました。子どもたちは学校でも触れたことがあると笑顔で話していました。伝統芸能を扱う歴史ある団体ですが、入り口は開かれています。インターネットで調べたり、舞台の鑑賞や稽古の見学をしたり、気軽に伝統芸能の世界に触れてみませんか。

問い合わせ:相模人形芝居前鳥座の鈴木
【電話】090-2900-4886