- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県逗子市
- 広報紙名 : 広報ずし 2025年4月号
市内で古書店を営む木村さん。店によく訪れるという高橋さんとは深い親交があります。高橋さんとの出会いや木村さんから見た人物像、作品について聞きました。
■ゆっくり温めていった深い親交 今でも人脈の広さに驚く日々
8年ほど前、偶然店に来たとき声を掛けたことが始まりです。「詩人の高橋睦郎さんですか」とお聞きしたら、「そうです」と。そして、店内を見て「この店は、植草さんが生きていたらきっと喜ぶな」と一言。映画やジャズの評論などで有名な植草甚一さんのことで、以前住んでいた世田谷のご近所で親交があったそうです。当時の私は詩があまり得意ではなく、詩人というとどこか堅いイメージがあって。その方から“植草甚一”という名前が出るとは思いも寄らなかったので、高橋さんの交遊や知識の幅広さを感じました。それからいろいろ話すようになり、句をいただいたり、共通の知人だった写真家の作品展に一緒に出掛けたり。少しずつ距離が縮まっていきました。
高橋さんの人脈の広さには今でも驚きます。好きになったものに真っすぐで、気になった人には手紙を書き、返事がきて仲良くなる。こうやって人との距離を縮めているのかと。縁を大切にし、その縁が縁を呼び、高橋さんを通して私も人脈が広がっていくのがうれしいです。
■たくさんのことを教えてくれた芸術家 高橋さんは、これからも憧れの文化人
高橋さんや著名な詩人の作品を読み、分からないことは高橋さんに教わり詩を勉強するように。多くのジャンルで作品がある高橋さんは、“詩人”というくくりだけではなく、大きくは“芸術家”そして“文化人”だと感じます。
高橋さんは今も書き続け、いつまでも詩の極みを求めているから若々しい。「もっと苦しめということ」は文化勲章受章時の言葉ですが、そう言えることがあの方のすごいところです。親授式の翌日、勲章を手に店へ来て「おかげさまでいただくことができました」と。私には勲章より重い、賛辞と励みの言葉でした。もっと苦しむ高橋さんを、店ではもっと楽しませたいと思います。
■木村さん流 作品の楽しみ方
幅広いジャンルがある高橋さんの作品。中には、難しいと感じる人もいるかもしれません。木村さんによる、楽しみ方のアドバイスです。
◆自分なりに、少しずつ作品との距離を縮めよう
分からないことを焦らない、恥ずかしいと思わないで大丈夫です。詩や俳句、短歌は、説明を省いているから情景を読み取るのが難しいもの。それぞれ感じ方は違うし、正解はありません。言葉の意味や季語を調べたり、分かる人に聞いたり、作品との距離をゆっくり縮めてください。
▽随筆を読んでみる
高橋さんは、さまざまな切り口で随筆をたくさん出版しています。詩が難しいと感じるなら、まずは人物を知るために随筆を読むことから始めてみても。そこに、ほかの作品への入口が見付かるかもしれません。
▽発行された年代で選ぶ
1959年に出版された第一詩集から現在まで、長きにわたって著書があります。時代ごとに表現も違うので、自分となじみが深い年代などから選んで読んでみるのも手です。
▽本の装丁を楽しむ
作家だけではなく、装丁・ブックデザイン・編集、時には写真や挿絵など、さまざまな人が関わり一冊の本を作り上げています。特に、高橋さんの作品は装丁がすばらしい。装丁やデザインも含めた、本全体を一つの作品として楽しんでみてください。
▽詩や俳句を書いてみる
これは、詩を読みたい人に向けた高橋さんのアドバイスです。実際に自分で書いてみると、作品の読み方や理解度も変わってくると思います。
◆古書鬻(ひさ)ぐ 燈(とも)し親(した)しよ 夜の秋
店を詠んだ高橋さんの句です。「鬻ぐ」は商いという意味で、「燈し親しよ」は“いつもオレンジ色の明かりが灯っている”、「夜の秋」は夏の季語。つまり、「夏の夜遅くまで、古書店の明かりがついている」ということ。俳句だと言葉が美しく、情景に奥深さが出ます。
◆木村さんセレクト おすすめ書籍
初めてでも手に取りやすい、おすすめの本を木村さんに聞きました。
▽友達の作り方(マガジンハウス)
人物ごとの交遊録を時系列に並べた随筆。三島由紀夫から始まり、デザイナーや俳優など、交遊がとにかく幅広いです。一人一人の見出しに加え、出会いからのエピソード、まとめ方が見事な一冊です。
▽花や鳥(ふらんす堂)
今の高橋さんを知ることができる、昨年出版された一番新しい句集です。句の中には市内で受け取った言葉もあるだろうし、“ここかもしれない”と市内の情景を思い浮かべて読むのも一興です。