子育て 【特集】こどもまんなか社会を目指して 一人一人が未来の種(1)

子どもはこれからの未来を担っていく大切な存在です。一人一人が健やかに幸せに暮らしていけるよう、市では「こども・若者みらい計画」を策定しました。特集では、計画に位置付ける「インクルーシブ」と「居場所づくり」といった課題に挑んでいる方々の活動に迫りました。

■こどもまんなか社会とは?
全ての子ども・若者が身体・精神・社会的に幸福な生活を送ることができる社会のこと。子どもが自分の能力を生かし、希望を叶えられるよう、社会全体で後押ししていきます。

■インクルーシブ保育 子どもの気持ちを一番に
水をかぶってはしゃぐ子、お絵描きに夢中な子、追い駆けっこをする子―。上依知にあるカミヤト凸凹保育園には、自由な時間が流れています。園のモットーは、「一人一人のやってみたいという気持ちを大切に」。子どもたちは障がいや国籍などに関わらず、全員が一緒に過ごしています。

▽「分けない」場所をつくる
「6歳までに考え方や個性など『自分らしさ』ができるので、勉強よりもまずは自分を愛せるようになってほしい」。そう話すのは理事長の馬場拓也さん(49)です。幼児教育では、0〜6歳は人格形成期とされ、その大切な時期にこそ、多様な子どもたちが共に過ごす環境が必要だと考えました。2016年、津久井やまゆり園で起きた事件をきっかけに、「障がいのある人もない人も幼い頃から一緒に過ごすことが当たり前だったら、悲劇は起きたのだろうか」と考えるように。どんな子も分け隔てなく育つ場をつくろうと、19年4月に保育園と障がい児支援が一体となった施設を開設しました。誰もが持つ凸(長所)に注目し、誰もが持つ凹(短所)をみんなで埋め合うという意味が込められた園では、さまざまな個性を持った子どもたちがクラスを分けずに生活しています。卒園後もつながりに切れ目をつくらないため、18歳まで通える放課後等デイサービスも併設。幅広い年代が共に過ごせる場を提供しています。

▽やりたいことを全力で
園では、保育士が一方的に教えるのではなく、子どもたちがやりたいことを自由に楽しめる保育に力を入れています。雨上がりの水たまりに寝転んでもいいし、木登りをしてもいい。やりたいことができるように時間割を決めず、伸び伸びと園舎を駆け回る子どもたちを見守ります。園長の瀬山さと子さん(62)は、「保育士は一歩引きながらも注意深く様子を見ている。けんかをしてもすぐに大人が止めたりしない。子ども同士で納得できるよう、自分たちで解決策を考えることが大切」と話します。

▽みんな凸と凹がある
自由な保育や子ども同士が長所と短所を補い合う園の考え方に共感し、障がいのある双子を入園させた老川麻衣さん(40・上依知)は、卒園後も放課後等デイサービスを利用しています。「子どもたちは慣れた場所に来ることでリラックスできている。息子たちはたくさんの凹があるけれど、みんなで一緒に過ごすから、子ども同士で自然と理解し合ってくれた」と話す老川さん。進学した小学校では、先生が特別に説明しなくても、同じ園で過ごし息子たちの特徴を分かってくれる仲間がいることに、心強さを感じています。
馬場さんは開園前から、園の方針に迷う日々を送りました。しかし今は、育ち合う子どもたちの姿や保護者の温かい言葉に背中を押され、「間違いなかった」と確信しています。「色んな園がある中で、一つはこんな場所があってもいい」と話す馬場さんの表情は、どこか晴れやかでした。

■地域の居場所づくり 子どもを中心にみんなが集まる食堂
「おかわり!」「よくかんで食べてね」。長谷第二自治会館の一室に、カレーの香ばしい匂いが広がります。「下長谷こども食堂」では月に一度、手作りカレーなどを振る舞い、子どもや若者、年配の方を楽しませています。

▽みんなの居場所づくり
「いつも来てくれてありがとう」。優しく子どもたちに話すのは代表の小金義春さん(78・長谷)です。防犯パトロールや自治会活動、保護司など、長年にわたり地域の子どもたちを見守ってきました。貧困やひとり親世帯の問題を目の当たりにし、何かできることはないかと考えていた時、妻の千恵子さん(75)が子ども食堂で喜ぶ人の姿をテレビで見ました。誰にとっても欠かせない食を安全に提供する食堂が、子どもたちが集まる場所として理想的と考え、夫婦で動き出しました。
2017年4月、民生委員やパトロール隊時代の仲間に声を掛け、下長谷こども食堂がスタートしました。「子どものためならと、すぐにみんな協力してくれた」と笑顔を見せる義春さん。現在、大学生や駐在所の警察官などを含めた15人で活動しています。

▽食卓を囲み笑顔が増える
地域の子どもや保護者など30人ほどが集まる自治会館の食卓では、カレーや副菜と一緒にたくさんの笑顔が並びます。家族で訪れた石井悌子さん(長谷)は「子どもは食堂に来るのを毎回楽しみにしている。通っていると地域の方に顔を覚えてもらえるのがうれしく、安心にもつながる」と話します。
子どもから大人まで気軽に立ち寄り、ご飯を食べながら輪を広げているこども食堂。数年前からは、中学校にうまくなじめず不登校だった生徒がボランティアをしています。始めは表情も暗く、義春さんとしか話せませんでしたが、畑での野菜づくりから食堂当日の準備まで、小金夫妻と多くの時間を重ねるうちに打ち解け、今では他のスタッフや子どもたちとも明るく関わっています。この春に大学を卒業し、社会人になる報告を受けた義春さん。「自分のことのようにうれしいね」と目を細めます。
下長谷こども食堂では、食事の提供だけでなく、小学校の先生による学習指導や季節ごとのイベントなども開催しています。義春さんは活動を続ける中、地域全体で子どもを見守る意識が広がっていると感じています。「これからも絆をつなぐ場所として、気軽に寄れる食堂で在り続けたい」。そう話す義春さんの目は、真っすぐに前を見つめていました。