くらし [コラム]学芸員 No.03 植物園としての質を高める

■松江大輔(まつえだいすけ)学芸員(箱根湿生花園)
専門分野:植物
1982年生まれ。南足柄市出身。大学院では、植物生態学を専攻する。偶然にも箱根に縁があり、2009年春、箱根湿生花園で学芸員として働き始める。2024年度、公益社団法人日本植物園協会表彰「坂崎奨励賞」受賞。
学芸員として、15年にわたり園内管理、展示植物の育成管理、教育普及活動を担当し、植物園としての質の向上に貢献してきたことが評価される。

■植物ラベルを整備する
◇植物園の基本となる植物ラベル
箱根湿生花園では、植物を解説するため、約3,000枚の植物ラベルを有しています。正しい情報を提供するのが植物園の役割であり、責任でもあるという観点から、植物ラベルには、日本人に馴染みの深い名前である和名(標準和名)のほか、世界共通の名前である「学名」も記載しています。これによって、海外の旅行者が見ても植物名を調べられるようになっています。

▽1970年の開園当初は、職員が一枚一枚手書きで製作していました。その後、イラストを入れられるようにしたり、反射しにくい素材を用いるなど、何度も改良が加えられ、現在の形となりました。

◇新たな分類体系へ
これまで、植物の分類体系は、生物の見た目の形から、進化の歴史を推定して作られていました。箱根湿生花園の植物ラベルもこの考えにしたがって作成されてきました。
しかし、DNA情報を用いた解析手法が進歩すると、過去の分類体系には、多くの誤りがあることがわかってきました。それを踏まえ、近年では、DNA分類体系に準拠した図鑑が出版されたり、有名な植物園のラベル表記が変更されたりとDNA分類体系が世界の主流になってきました。

◇植物ラベルの更新プロジェクト
箱根湿生花園では、2021年度より、園内の植物ラベルをDNA分類体系に準拠したものに更新するプロジェクトに取り組んでいます。具体的には,1種類ずつ、最新のデータベースや文献を調べなおし、種名や分布域に変更が無いか、何科に属するのかを再確認し、新たな原稿を作成しています。
併せて、この50年間で大きく変化した開花時期についても、最新の開花記録を反映させるようにしています。作業は、地味ですが、新たな発見もあり、意外にも楽しみながら取り組んでいます。

冬季休園期間中、職員は園内全てのラベルを回収し、洗浄、補修などを行います。ラベルが外された園内の景色は、まるで自然の野山のようですが、再びラベルを設置したとたん、ぐっと植物園らしくなります。ご来園の際には、学芸員こだわりの植物ラベルにもご注目いただけると幸いです。

▽今季からは、従来の植物ラベルに加えて、スマートフォンを用いた園内案内システムも導入しました。

次回は6月号。郷土資料館 勝間田学芸員の予定です。お楽しみに!

※詳細は、本紙P.14をご覧ください。