文化 古文書でタイムスリップ

■「江戸時代わが村の暮らし」(51)
野火禁止、捕違い苦しからず
〜「歴史とみちの館」所蔵・平田家文書を読む〜
(村歴史文化財調査委員 渡辺伸栄)

この春の岩手県山林火災は、まだ記憶に新しいところですが、江戸時代も、林野の火災が多発していたようです。文政十三(一八三〇)年の文書を紹介します。
前段は、幕府から全国に出された通達の内容です。
「近ごろ国内各所で野火が多く、人々が困っていると聞く。今後、野火をする者がいたら、御料私領とも厳しく捜索して、よその領地であっても構わず踏み込んで捕らえよ。捕違い苦しからず。
冬春、村役人は山林や萱野(かやの)を見回ること。野火があったら御料私領区別なく近郷近在の者で早々に駆け付け消し止めること。野火をした者は重罪にする。」
続く後段はこう書いてあります。「このように幕府から通達があった。村中の者全員にしっかりと心得させるように。野火をする者がいたら捕まえて報告すること。もし、手を抜いていい加減にしたら、村役人を罰する。」
文書の発出人は、肩書も所属もなく、ただ大草太郎左衛門とだけ書いてあります。それだけで誰のことか分かる人物だからでしょう。どうやら水原代官所の代官のようです。
ところで、文中の捕違い苦しからずの意味が問題です。
「捕違い」は、「捕らえ違い」又は「捕り違い」で、どちらも「間違い逮捕」のこと。「苦しからず」は「構わない」ということ。何を間違い逮捕しても構わないのでしょうか。
まず考えられるのは、人。人違いでも構わないから怪しいやつは捕まえてしまえと。少々乱暴ですが、予防の隔離策でしょうか。
次に考えられるのは、場所間違いの逮捕。文中の「御料私領とも」とか「よその領地であっても」という文言が、そのヒントです。
御料は幕府領、私領は大名や旗本の領地です。通常、私領に幕府代官所の役人は踏み込めません。時代劇で、町奉行所の役人が寺社や武家屋敷のばくち場に踏み込めないのと一緒です。
しかし、長谷川平蔵で有名な火附盗賊改方(あらためかた)は幕府老中(ろうじゅう)の許可で踏み込めました。野火もこれと同じ考え方で、管轄(かんかつ)区域が違っても構わず踏み込んで捕まえろということになります。
さて、どっちの意味でしょう。もしかすると、二つの意味を持たせているのかもしれません。うっかり野火をしても、それは放火犯と同じ重大犯罪だぞと知らせたかったのでしょう。
暑い夏に熱い火の話ですみません。暑気あたりにご用心ご用心。
蛇足:鬼平犯科帳の鬼平中村吉右衛門、おまさ梶芽衣子、彦十江戸屋猫八、名優でしたねえ。
(原文と解説は歴史館に展示、又は、下の本紙QRから)