くらし 【特集】沼津とクラフトビールの物語(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 静岡県沼津市
- 広報紙名 : 広報ぬまづ 2025年11月1日号
カレンダーが11月になりました。澄んだ空の下、食欲も一段と高まる「食欲の秋」。また、もうすぐ何かにつけて集まる機会が増える年末年始。忘年会や新年会、旧友との久しぶりの飲み会などで特別な時間を彩る大切な存在となるのがお酒です。
自宅でも、お店でも。沼津で飲むなら、地元で生まれたとっておきの「一杯」を選んでみませんか。沼津生まれのお酒は、ただ酔うためだけのものではありません。富士山や愛鷹山由来の清らかな湧水、駿河湾の豊かな恵み、そしてこのまちに根ざした人々の情熱が、グラスに注がれた一杯に詰まっています。
今回は、そんな沼津の風土と心意気が育んだお酒、なかでも近年注目を集めている沼津のクラフトビールの物語をご紹介します。クラフトビールとは、小規模な醸造所が、醸造家の個性とこだわりを反映させて造る、バラエティ豊かな味わいのビール。「職人技のビール」「手造りのビール」とも言われます。沼津の秋の味覚を、地元のクラフトビールと一緒に堪能してみましょう。沼津の誇りが醸した一杯で乾杯するといつもの飲み会が、もっと心に残るひとときになるはずです。
ワンランク上の食体験に、個性豊かな沼津のクラフトビールはいかがでしょうか。
■クラフトビールと沼津のペアリング
クラフトビールという言葉が一般に浸透していなかった時代。アメリカ人醸造家のブライアン・ベアードさんと奥さまのさゆりさんが、沼津港の近く、千本港町に「ベアード・タップルーム沼津フィッシュマーケット」をオープンしたのは2000年。
ビール醸造の本場であるカリフォルニアで技術を習得した彼らが醸す個性豊かなビールは、地元のビール愛好家だけでなく、遠方からの多くのファンも惹(ひ)きつけました。これは、沼津がクラフトビールのまちとして知られるきっかけといえます。
2010年代半ばには、千本緑町や沼津駅の近くで若手醸造家によるクラフトビールの醸造がスタートします。これらの醸造所はタップルーム(簡易的な飲食スペース)を併設していて、ビールを造るだけでなく、造り手と飲み手が直接交流できる場を提供することで、沼津のクラフトビール文化の裾野を広げました。
ここ数年、静岡県東部ではビール醸造所がさらに増えています。こうした動きは、沼津のクラフトビールが、地域全体で楽しめる存在へと変化していったことに他なりません。沼津では今、新たなビール文化の醸成期を迎えているといって過言ではないでしょう。
■沼津の自然、という 醸造に欠かせない素材(マテリアル)
沼津のクラフトビール文化がこれほどまでに育まれた背景には、この土地ならではの恵まれた自然環境があります。市内の醸造家が口を揃(そろ)えるのは、富士山や愛鷹山由来の清らかな水のありがたさ。長い年月をかけて溶岩層を通り抜けた地下水は、不純物が少なく、口当たりが非常にまろやかです。この水は、ビールの風味を柔らかく、そして繊細に引き出すため、ビール造りには理想的だといいます。
沼津に新しい風を吹き込むクラフトビールは、水だけでなく、多様な地元素材を使っているのも特徴です。戸田の橘や沼津産の梅、桃など、地元のフルーツを使った季節限定ビールを醸造することもあります。
こうした自然の恩恵が、情熱を持った醸造家たちの挑戦と結びつき、沼津を個性豊かなクラフトビールのまちへと押し上げています。今では静岡県のなかでも東部に多くの醸造所が集まり、クラフトビールの聖地として認められつつあります。
港町であるという誇りから、アジフライや干物などの魚料理との相性がよいビールを数多く手掛けているのも嬉しいですね。
■循環型の持続可能なクラフトビール
沼津のクラフトビールは、ひとつの地場産業にとどまらず、地域全体を巻き込むプロジェクトへと進化を遂げています。
それが、沼津市・三島市と静岡クラフトビール協同組合などが連携して進めている『TAP ON SURUGA』プロジェクト(東駿河湾クラフトビール地域循環共生圏推進事業)です。この事業は、クラフトビールを活用して、環境と経済が両立する持続可能な社会を目指しています。
具体的な取組のひとつに、地場産品や地域固有の環境を活かしたオリジナルビールの開発や、ガストロノミーツーリズム(その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的とした旅行、観光)を展開していくことが挙げられます。
若手を中心とした醸造家がこの取組の重要な担い手となり、地域の生産者や飲食店と手を取り合い、新しい価値を創造しています。
○TAP ON SURUGA
県東部を中心とした醸造所が連携し、2021年6月に静岡クラフトビール協同組合を組織しました。毎年、春と秋にクラフトビアジャンボリーを開催するなど、静岡のクラフトビールの認知を広げる活動を精力的に行っています。
東駿河湾クラフトビール地域循環共生圏推進事業について、詳しくは、本紙またはPDF版掲載の二次元コードよりご覧ください。
■知っていますか? クラフトビールの種類
クラフトビールとひとくちに言っても、酵母や麦芽、ホップの使い方によって香りや味わいは千差万別。ラガー、IPA、スタウトなど、様々な種類があります。
○ラガー
すっきりとした喉越しと、キレのある爽快感が人気のビール。低温でじっくりと発酵・熟成させることで、雑味が少なく、クリアな味わいに仕上がります。
日本の大手ビールメーカーが造るビールの多くがこのスタイルで、どんな食事にも合わせやすい万能なビールです。
○アイ ピー エー
インディア・ペールエールを略してIPAと呼びます。大量のホップを使用しているため、泡が豊かに立ち、華やかな香りと苦みを存分に味わうことができます。18世紀のイギリス発祥で、世界中で愛されているビアスタイル(ビールの種類)のひとつです。アルコール度数が比較的高めのものが多いのも特徴です。
○スタウト
黒ビールの代表格で、ローストした麦芽を使用するため、コーヒーやチョコレート、カラメルを思わせる香ばしさとコクが特徴です。スタウトは苦味と香りが強く、クリーミーな口当たりが楽しめます。寒い季節にじっくりと味わいたい一杯です。
問合せ:商工振興課
【電話】055-934-4748
