くらし 〔院長コラム〕一緒に考えましょう 健康のこと 医療のこと(91)

市民病院 院長 川井 覚

■自分の住む地域に病院があるということ
私たちが、入院治療が必要な病気やケガをすることは人生のうちにそうそうあるものではありません。60歳までに入院する確率は約18%というデータもありますが、人は誰でも年を取り高齢になるほど病気になりやすく、入院して治療を行う必要性も高くなります。

健康な時は、自分の住む町に救急車を受け入れている大きな病院があることの重要性を、日ごろそれほどは感じないでしょう。しかし、いざ自分や家族が病気になり、入退院を繰り返すようになると、近くに病院があるありがたさを感じるようになるかもしれません。

今、地方では少子高齢化で人口減少が進んでおり、病院の縮小や閉院が多くなってきています。人口減少という問題は津島市にとっても例外ではなく、急速に少子高齢化が進んでいます。この地域では、2040年ごろまでは高齢者の数は減らず、医療需要は変化しないと想定されています。現役世代といわれる65歳くらいまでは、がんや難病などの重い病気になってしまっても、大学病院やセンター病院に通院し治療をうける姿をイメージできるかもしれませんが、高齢になり自家用車や公共交通機関での移動がままならなくなったときに、遠くの医療機関までの通院は大変でしょう。また、大切なご家族の入院が必要になって、遠くの施設まで頻回に面会に行かなければならないような状況でも同様でしょう。少子高齢化社会では独居高齢者や老々介護の更なる増加が見込まれており、適切な医療サービスにアクセスができなくなる状況も危惧されています。

そのような中、救急を担う急性期病院は地方に限らず、どの病院でも昨年の診療報酬改定で経営が非常に厳しい状態です。物価上昇にともなう診療材料費、光熱費、委託費や人件費などの経費の増大は公定価格である診療報酬に転嫁することはできず、このままでは病院機能の維持が困難で、その存続も危ぶまれています。地域医療構想で病院機能の集約化がいわれていますが、集約化される場所がどこになるかは地域の住民にとっては非常に大きな問題となるでしょう。医療のないところに人は住めません。これを機に自分の住む地域に病院があることの意義を考えていただければと思います。