- 発行日 :
- 自治体名 : 愛知県岩倉市
- 広報紙名 : 広報いわくら 2025年8月号
岩倉市医師会 大野レディスクリニック 大野 泰正
■はじめに
わが国の2023年の出生数は74万人で急激に少子化が進んでいることは皆さんご存知の通りです。一方、産後に「うつ病」を患い(産後うつ)辛い思いをしている産婦さんの数は増加しています。「産後うつ」は児童虐待や自殺という最悪の結末を招く場合もあるため産婦さんを「産後うつ」からどう救うかが重要な課題です。
■「うつ病」
うつ病は精神障害の中でも気分障害というタイプの病気です。精神的身体的ストレスにより脳が上手く機能しなくなり、物の見方が否定的になり自分が駄目な人間だと感じる状態です。全世界の患者数は2億6400万人と言われています。
■「産後うつ」
産後に発症する「うつ病」のことです。原因は、慣れない育児に対するストレスや不安、授乳トラブルのストレス、慢性不眠による体力消耗、ひとりで抱え込み(ワンオペ)と相談相手がいない孤独感、家族に不安を受容して貰えない絶望感など様々です。もともと「うつ病」を持たない妊婦さんでも12%が「産後うつ」を発症します。
■「産後うつ」の怖さ
出生数の減少にも拘らず、2023年の妊産婦死亡数は32人(出産10万あたり約4人)で実は減少していません。わが国における早期妊産婦死亡原因(妊娠中〜産後42日)は分娩時大量出血(17%)、脳卒中(16%)、自殺(13%)の順に多く、後期妊産婦死亡原因(産後43日〜1年)は自殺が第一位(39%)を占めています。自殺の原因は圧倒的に精神障害によるものが多く、「産後うつ」などの気分障害は自殺のリスクを134倍増加させます。従って「産後うつ」を早期に発見して対応する必要があります。
■「産後うつ」を見つける対策
全国において産後1カ月健診時に産婦さんにエジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)を用いた調査を行っています。質問は10項目(合計30点)で9点以上の場合「産後うつ」の可能性ありと判断されます。当院でも全員に調査を行い、9点以上の産婦さんに対してはスタッフが相談に乗っています。危険例と判断した場合は、産婦さん同意のもと保健センターに情報提供してきめ細かなメンタルケアを依頼しています。
■産婦さんを「産後うつ」から守る対策
近年、厚生労働省や学会が産後メンタルケアの全国的な取り組みを強化していますが、分娩施設、保健センター、家族の役割が重要と考えます。分娩施設は、妊娠中から産後まで、精神疾患を抱えている妊産婦さんに対して傾聴と相談に時間を割き精神状態の把握に努めます。そして、保健センターと連携して細かなメンタルケアを開始します。産後1カ月健診時にはEPDSを行って「産後うつ」のリスクを確認します。問題は、分娩施設との関りが終了する産後1カ月健診以降です。産婦さんが抱えるストレスが悪化した時に受容してあげられるのは他でもない家族です。家族内に原因があったり、家族が深刻度を理解してあげられない場合、産婦さんは逃げ道を失い最悪の事態に至ることが否定できません。家族の支えこそ最も重要だと痛感しています。分娩施設、行政、家族で力を合わせて産婦さんを「産後うつ」から救いたいものです。