くらし とよあけ花マルシェコラム

「風そよぐ〜ならの小川の〜夕暮れは〜 みそぎぞ夏の〜しるしなりける〜」(『新勅撰集(しんちょくせんしゅう)』夏/百人一首98番、従二位家隆(じゅにいのいえたか))。藤原家隆(ふじわらのいえたか)がこの歌を詠んだのは立秋の前日のこと。「そうなんですの?なんか涼しげなお歌のようですのに」そうですね。この歌は京都上賀茂神社(かみがもじんじゃ)で行われるみそぎの祭「六月祓(みなづきばらえ)」の様子を詠んだもので〈夕暮れも近づき、楢(なら)の木陰を流れる川のほとりはとても涼しく秋らしさ満点だけど、目の前では夏の行事の六月祓をしているから、まだ夏なんだよね〉といった感じの内容です。ちなみにこの日は現代の8月5〜6日にあたります。「えっ、8月5日の京都が涼しいってどういうこと〜?」不思議ですね〜。こういったところからも日本列島の温暖化が推し量れるのかもしれませんね。その日からさらにひと月を過ぎたものの、未だムッとした空気に包まれているこの頃、なかなかお花を楽しむ気分にもなれないのが正直なところでしょうか。「そうね〜。でも、私(わたくし)、この前、面白いお花を見かけましたのよ!」へぇ〜!どのような物でしょうか?「通りすがりのお庭の片隅に生えていたお花の蔓(つる)に、黄緑色(きみどりいろ)の袋状の実がいくつもぶら下がっていましたの」あ、それはきっとフウセンカズラですね。
フウセンカズラはムクロジ科フウセンカズラ属の1種で、熱帯から亜熱帯にかけて広く分布する一・二年草です。日本への到来は明治以降ということですが、はっきりとしたことはわかっていません。
フウセンカズラは、夏から秋にかけて蔓を伸ばしながら白花を咲かせます。花は同時期に雄花(おばな)と雌花(めばな)に咲き分け、このうちの雌花の子房(しぼう)が後ほど袋状に膨らんでいきます。「フウセンカズラの袋はホウズキの袋にそっくりですね」はい、よく似ていますね。ただし、ホウズキの袋が萼弁(がくべん)どうしが合着(ごうちゃく)した後に膨らんでできたもので、中には実があるのに対し、フウセンカズラの袋は子房の表皮が膨らんでできており、袋自体が実であって、中には種のみがある点が違っています。
フウセンカズラは暑気に延びる蔓です。したがって、アサガオやゴーヤなどのように網などに沿わせて遮光カーテン状に仕立てることもできます。今年はもう成長期が終わってしまいましたが、来年に緑のカーテンをお考えの時は、フウセンカズラも候補に入れてあげましょう。

執筆/愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦
※写真は広報紙30ページをご覧ください。